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看護学
問題

65歳の男性。強いめまいと呼吸困難を主訴に救急外来を受診した。冷汗を認め、意識は混濁しており、検査所見は以下のとおりである。この患者のバイタルサインを安定させるために最優先で投与する薬剤はどれか。

·バイタルサイン:血圧80/50 mmHg、心拍数35回/分、呼吸数22回/分

·血液検査:Na 138 mEq/L、K 4.0 mEq/L、Cl 100 mEq/L、トロポニンI 0.01 ng/mL 

·心電図: 洞性徐脈(sinus bradycardia)

解説

副交感神経を抑制して心拍数を上げるアトロピンが症候性徐脈の第一選択薬であり、アデノシンは頻脈に、ジゴキシンは収縮力の増強に用いる

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詳細解説

問題の分析と正答の導き方

患者は血圧 80/50 mmHg の低血圧と心拍数 35回/分 の高度徐脈を呈し、意識混濁と冷汗を伴うショック状態である。心電図では 洞性徐脈(sinus bradycardia)が確認され、血清カリウム値は 4.0 mEq/L と正常、トロポニンIも正常であることから、心筋梗塞や高カリウム血症による徐脈の可能性は低い。したがって血行動態が不安定な症候性徐脈が中心的な問題であり、これを速やかに是正することが最優先課題となる。

薬理作用と選択の根拠

アトロピン(atropine)はムスカリン性アセチルコリン受容体を遮断する抗コリン薬であり、迷走神経による心抑制作用に拮抗して洞結節の自動能を高め、房室伝導を促進する。その結果、心拍数が増加して心拍出量と血圧が上昇するため、症候性洞性徐脈の第一選択薬として用いられる。提示した文献[2]でも、グラヤノトキシン中毒により血圧 60/40 mmHg、心拍数 42回/分 の低血圧および徐脈をきたした症例が報告されており、迷走神経の持続的な活性化が血行動態の不安定性を招きうることを示している。このように過度の迷走神経緊張が原因となる徐脈では、アトロピンがきわめて有効な拮抗薬となる。

誤答の分析

- ジゴキシン(digoxin):Na⁺/K⁺-ATPaseを阻害して心筋収縮力を高めるが、迷走神経緊張を増強して房室伝導を遅らせるため、徐脈を悪化させる危険がある。
- アデノシン(adenosine):房室結節の伝導を一時的に遮断して発作性上室頻拍を停止させる薬剤であり、徐脈の患者に投与すると心停止を招くおそれがあるため禁忌である。
- リドカイン(lidocaine):ナトリウムチャネル遮断薬で心室性不整脈に用いる薬剤であり、洞性徐脈の治療には適応がない。
- アミオダロン(amiodarone):主にカリウムチャネルを遮断する広域の抗不整脈薬で、β遮断作用も有し心拍数をさらに低下させうるため、徐脈の患者には用いない。

臨床への応用と病態生理の理解

症候性徐脈は心拍出量の低下を招き、脳灌流低下(意識混濁、めまい)や冠灌流低下、全身の低灌流(冷汗、低血圧)を引き起こす。文献[1][2]に共通して取り上げられているグラヤノトキシン(grayanotoxin)中毒の症例は、病態生理を理解するうえで良いモデルとなる。この毒素は神経細胞のナトリウムチャネルを開いたままに保つことで迷走神経を過度に活性化させ、洞結節の刺激発生頻度を低下させるとともに房室伝導を遅延させ、高度の徐脈と低血圧をもたらす。本問の患者はグラヤノトキシン中毒が直接の原因ではないが、結果的に類似した迷走神経過活性による血行動態の破綻を呈しているため、抗コリン薬であるアトロピンによる速やかな拮抗が救命につながる治療原則となる。また文献[3]で扱われている BRASH症候群は、徐脈・ショック・高カリウム血症などが悪循環を形成する病態であり、本症例のように血圧と心拍数がともに低下している場合には必ず鑑別に含める必要があるが、この患者はカリウム値が正常であるため、BRASH症候群よりも純粋な症候性徐脈に焦点を当てた治療が求められる。文献[4]で述べられている薬物相互作用による高度徐脈の症例も、複数の薬剤が心臓の刺激伝導系を抑制した際に血行動態の破綻が生じうることを示しており、その際には原因薬剤の中止とともにアトロピンのような即時の薬物介入が必要であることを示唆している。
参考文献(論文出典)
  • [1]
    Mad Honey Poisoning Caused by Grayanotoxin Toxicity in a 75-Year-Old Male Patient Presenting With Hypotension and Bradycardia in the United Kingdom: A Case Report.ケースレポートAlkhafaji A. (2026) · DOI: 10.7759/cureus.109538
  • [2]
    "Mad honey and the heart: a case report of transient bradycardia and hypotension from Nepal".ケースレポートPahari N, Pahari M, Ghimire S, Kaphle P, Khatri B, Yadav R, Kumari S, Muzammil M. (2026) · DOI: 10.1186/s12245-026-01194-1
  • [3]
    Current Trends and Future Perspectives of Bradycardia, Renal Failure, Atrioventricular Nodal Blockade, Shock, and Hyperkalemia (BRASH) Syndrome: A Narrative Review.一般論文Maruyama T, Hieda M, Fukata M. (2026) · DOI: 10.7759/cureus.104731
  • [4]
    Profound Synergistic Bradycardia: Pharmacokinetic Consequences of Paxlovid-Mediated CYP3A4 and CYP2D6 Inhibition on Ranolazine, Diltiazem, and Metoprolol.一般論文Bactawar SB, Gaibor C, Abdul-Waheed M. (2026) · DOI: 10.7759/cureus.106262

臨床シナリオ

血行動態が不安定な徐脈への緊急対応症候性徐脈患者におけるアトロピン投与の原則

症候性徐脈とは、心拍数が 50回/分未満 で、かつ 低血圧、意識レベルの低下、ショックなど血行動態の不安定を伴う状態である。最優先の薬剤は アトロピンで、0.5mg を静脈内投与し、3〜5分 間隔で反復投与できる。

アトロピンは 迷走神経緊張を抑制することで洞結節の自動能を高め、房室伝導を促進する。これにより心拍数と心拍出量が増加し、血圧が上昇する。総投与量は最大 3mg まで可能であり、効果がない場合は直ちに 経皮ペーシングの準備を行う。

注意

アトロピン投与前には 低酸素血症循環血液量減少を必ず先に補正する。急性心筋梗塞の患者ではアトロピンが心筋虚血を悪化させることがあるため注意が必要であり、高カリウム血症を伴う徐脈(BRASH症候群)ではアトロピン単独の効果が限定的となることがある。

重要概念

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