臨床実践ガイド
最重要! 子宮内反症は、発生したら生命に関わる産科的危機的出血の一つです。分娩室や産科病棟で勤務する看護師は、常にこの病態を念頭に置き、迅速な対応ができるように準備しておく必要があります。
臨床シナリオ (Clinical Scenario): 26歳の初産婦、経腟分娩後、胎盤娩出を試みている場面。医師が臍帯を軽く牽引し、もう一方の手で子宮底を圧迫(Crede法)したところ、患者さんが突然「いてえ!痛い!」と悲鳴をあげ、顔面が蒼白になり、汗をびっしょりかきました。同時に腟から多量の血液(500ml以上)が流出しました。腹部を触診すると、子宮底が触れません。
看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment):
1.
観察・アセスメント: バイタルサイン(特に血圧低下・頻脈・SpO2低下・ショックインデックス >1.0)を測定。腹部触診(子宮底消失)、腟内の状態(暗赤色の腫瘤の有無)を確認。患者の意識レベルと疼痛の程度(Numerical Rating Scale, NRS)を評価。
2.
報告(SBAR): 「S(状況): 胎盤娩出試行中、患者さんが突然の激痛と大量出血。子宮底が触れません。B(背景): 経腟分娩後、胎盤用手剥離を試行中。A(アセスメント): 子宮内反症を疑います。R(提案): 直ちにご確認ください。用手整復の準備と輸液開始を行います。」
3.
介入:
直ちに医師をコール。2ルートの太めの静脈路確保(20G以上)。乳酸リンゲル液(酢酸リンゲル液)の急速輸液開始。酸素投与(10L/分、リザーバーマスク)。バイタルサインと出血量の5分毎モニタリング。医師の指示で子宮収縮薬(オキシトシン点滴)の準備と投与。用手整復(Johnson法: 腟内の子宮底部を手掌で支え、骨盤入口に向かって押し上げる)の準備と介助。緊急帝王切開(開腹整復)の可能性も視野に入れ、手術室の準備連絡。
患者安全・注意事項 (Patient Safety & Precautions):
-
絶対禁忌! 胎盤がまだ付着している状態での無理な子宮底圧迫や臍帯牽引をしない。これが内反症の最大の誘因です。
- 疼痛性ショックは出血性ショックより先行することがあり、意識があっても頻脈と血圧低下に注意。
- 輸血準備(交差試験、血液準備)を同時に進める。産科危機的出血プロトコル(Massive Transfusion Protocol, MTP)の発動を医師に提案する。
- 用手整復後は、子宮収縮を促すために子宮収縮薬の持続投与と子宮底部の評価を継続する。
看護プロトコル:
-
観察項目: バイタルサイン(5分毎)、出血量(パッド重量測定、リネン交換量)、子宮底の触知状態、腟内腫瘤の有無、疼痛スケール(NRS)、意識レベル、尿量(30ml/hr以上を目標)
-
報告基準(SBAR): 子宮底触知不可 + 大量出血 + 激痛 → 直ちに医師へ。
-
記録のポイント: 発症時刻、出血量(推定値と実測値)、バイタルサインの経時的変化、実施した看護介入(輸液、酸素、医師への報告時刻と指示内容)、用手整復の経過と結果(整復の成否、整復後の子宮底の位置)。
-
家族への説明: 医師から家族に対して「お産の後に子宮が裏返しになるまれな状態が起こりました。今、治療を急いで行っています。命に関わる状態ですので、緊急処置を優先させていただきます。」と説明してもらう。
先輩看護師の一言: 「分娩介助中、胎盤を取ろうとする時に『痛い!痛い!』と患者さんが叫んだら、まず手を止めて!内反症を疑って。子宮底を触らなくなるんだよね。パニックになりそうになるけど、『患者さんの命を守る』ために、まず医者を呼ぶ、太いルートを取る、酸素を付ける。この3つを迷わずできるようにしておこうね。知識があれば、怖がらずに動けるから。」(qn_ai_explain):
核心解説
この問題は、産科的緊急疾患である
子宮内反症 (Uterine Inversion)の診断的所見を問うています。子宮内反症とは、分娩後(特に胎盤娩出時に不適切な牽引や圧迫が加わることで)、子宮底部が腟内に翻転・陥入する病態です。この病態を理解する鍵は、
「子宮が裏返しになる」というイメージです。子宮底部が子宮腔から腟内に落ち込むため、腹部の触診では子宮底が触知できなくなり、代わりに腟内に暗赤色の腫瘤(翻転した子宮本体)が触知されます。また、強度の疼痛(疼痛性ショック)と大量性器出血を伴うため、迅速な診断と対応(用手整復・緊急手術)が求められる産科危機的出血の一つです。
正解の根拠 (Answer Rationale)
最重要! 子宮内反症では、子宮底部が腟内に完全または不完全に翻転するため、腟鏡診や内診で
腟内に暗赤色の腫瘤を認めます。これが最も特徴的かつ直接的な診断所見です。腹部触診では子宮底が触知できず(
混同注意! 子宮底が高く触知されるのは子宮収縮不良(弛緩出血)の所見)、子宮底の位置は低下します。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
1番(腹部で子宮底が触知できる):
混同注意! 子宮内反症では子宮底部が腟内に陥入するため、腹部では子宮底は触知できなくなります。子宮底が触知できるのは正常産褥経過や弛緩出血の場合です。
2番(腟内に腫瘤を触知しない): 子宮内反症では腟内に翻転した子宮体部を腫瘤として触知するため、これは誤りです。触知しないのは正常産褥経過です。
3番(産褥期の高熱が初発症状である): 産褥期の高熱(38℃以上)は産褥熱(産褥感染)の主症状であり、子宮内反症の初発症状ではありません。子宮内反症の初発症状は、産後突然の激痛(疼痛性ショック)と大量性器出血です。
4番(子宮底が臍より下方に位置する): 子宮内反症では子宮底自体が触知できなくなるか、もし触知できても腟内に落ち込んでおり、正常な位置(臍高)より遙かに下方です。しかし「臍より下方」という表現は産褥1日目の正常子宮底位置(臍高)からの経時的下降を示す表現であり、内反症の特徴的な説明ではありません。
関連概念の整理 (Related Concepts)
産後出血(Postpartum Hemorrhage)の原因として、
4T(Tone: 子宮弛緩、Trauma: 裂傷、Tissue: 遺残胎盤、Thrombin: 凝血能異常)が有名ですが、子宮内反症はこの中のTrauma(物理的損傷)に分類される特殊な病態です。子宮内反症と子宮弛緩症(Uterine Atony)は共に産後出血を来たしますが、前者は「子宮の形の異常(裏返し)」、後者は「子宮の収縮力低下」という点で病態が全く異なります。
概念整理: 子宮内反症 (Uterine Inversion) = 子宮底部が腟内に翻転・陥入する産科的緊急症。腹部では子宮底触知不可、腟内に暗赤色腫瘤触知。激痛 + 大量出血 + ショック。原因: 胎盤牽引 (Crede法の誤用)、臍帯牽引、子宮底圧迫など。
一目で比較!:
| 病態 | 腹部触診 (子宮底) | 腟内所見 | 出血の特徴 | 疼痛 |
|---|
| 子宮内反症 | 触知不可または低い | 暗赤色腫瘤あり | 大量性器出血 | 激痛(疼痛性ショック) |
| 子宮弛緩症 | 高い(臍上)・軟 | 腫瘤なし | 大量性器出血 | 軽度~なし |
| 産褥熱 | 正常範囲 | 悪露の異常 | 少量~中等量 | 下腹部痛(感染) |
看護過程ポイント:
アセスメント: 胎盤娩出後、患者が突然「お腹が痛い!」と激痛を訴え、大量出血が出現。腹部を触診すると子宮底が触れない。腟鏡診で暗赤色の腫瘤確認 →
子宮内反症を疑う。
看護診断: ① 出血による体液量不足リスク状態 / ② 疼痛(急性)/ ③ ショックリスク状態。
計画・実施: 直ちに医師コール、輸液路2ルート確保、バイタルサイン測定(ショックインデックス計算)、酸素投与。用手整復(Johnson法)の準備と介助。子宮収縮薬(オキシトシンなど)の準備。
評価: 整復後、子宮底が触知可能になる、出血が減少する、バイタルサインが安定化する。
暗記のコツ: 「子宮が裏返し(内反)=お腹の子宮が消えて、腟の中に赤い塊(子宮)が現れる」とイメージしましょう。イメージとしては靴下を脱ぐ時に、つま先が中に入ってしまう状態です。
国試頻出ポイント: 子宮内反症の特徴的な所見(腹部触診不可・腟内腫瘤)と、弛緩出血(子宮底高位)との鑑別は頻出です。また、産後出血の原因(4T)と各病態の看護介入の違い(子宮内反症は用手整復、弛緩出血は子宮マッサージ・子宮収縮薬)も合わせて問われやすいです。
出題パターン注意!: 単純な知識問題として「子宮内反症で正しいのはどれか」が出題される一方、事例問題として「経腟分娩後、胎盤娩出直後に産婦が激痛を訴え、多量の出血あり。腹部で子宮底が触知できない。腟鏡診を行うと…」という状況で、看護師の優先順位(報告、輸液、用手整復準備)を問う問題に発展します。
(qn_case):
臨床実践ガイド
最重要! 子宮内反症は、発生したら生命に関わる産科的危機的出血の一つです。分娩室や産科病棟で勤務する看護師は、常にこの病態を念頭に置き、迅速な対応ができるように準備しておく必要があります。
臨床シナリオ (Clinical Scenario): 26歳の初産婦、経腟分娩後、胎盤娩出を試みている場面。医師が臍帯を軽く牽引し、もう一方の手で子宮底を圧迫(Crede法)したところ、患者さんが突然「いてえ!痛い!」と悲鳴をあげ、顔面が蒼白になり、汗をびっしょりかきました。同時に腟から多量の血液(500ml以上)が流出しました。腹部を触診すると、子宮底が触れません。
看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment):
1.
観察・アセスメント: バイタルサイン(特に血圧低下・頻脈・SpO2低下・ショックインデックス >1.0)を測定。腹部触診(子宮底消失)、腟内の状態(暗赤色の腫瘤の有無)を確認。患者の意識レベルと疼痛の程度(Numerical Rating Scale, NRS)を評価。
2.
報告(SBAR): 「S(状況): 胎盤娩出試行中、患者さんが突然の激痛と大量出血。子宮底が触れません。B(背景): 経腟分娩後、胎盤用手剥離を試行中。A(アセスメント): 子宮内反症を疑います。R(提案): 直ちにご確認ください。用手整復の準備と輸液開始を行います。」
3.
介入:
直ちに医師をコール。2ルートの太めの静脈路確保(20G以上)。乳酸リンゲル液(酢酸リンゲル液)の急速輸液開始。酸素投与(10L/分、リザーバーマスク)。バイタルサインと出血量の5分毎モニタリング。医師の指示で子宮収縮薬(オキシトシン点滴)の準備と投与。用手整復(Johnson法: 腟内の子宮底部を手掌で支え、骨盤入口に向かって押し上げる)の準備と介助。緊急帝王切開(開腹整復)の可能性も視野に入れ、手術室の準備連絡。
患者安全・注意事項 (Patient Safety & Precautions):
-
絶対禁忌! 胎盤がまだ付着している状態での無理な子宮底圧迫や臍帯牽引をしない。これが内反症の最大の誘因です。
- 疼痛性ショックは出血性ショックより先行することがあり、意識があっても頻脈と血圧低下に注意。
- 輸血準備(交差試験、血液準備)を同時に進める。産科危機的出血プロトコル(Massive Transfusion Protocol, MTP)の発動を医師に提案する。
- 用手整復後は、子宮収縮を促すために子宮収縮薬の持続投与と子宮底部の評価を継続する。
看護プロトコル:
-
観察項目: バイタルサイン(5分毎)、出血量(パッド重量測定、リネン交換量)、子宮底の触知状態、腟内腫瘤の有無、疼痛スケール(NRS)、意識レベル、尿量(30ml/hr以上を目標)
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報告基準(SBAR): 子宮底触知不可 + 大量出血 + 激痛 → 直ちに医師へ。
-
記録のポイント: 発症時刻、出血量(推定値と実測値)、バイタルサインの経時的変化、実施した看護介入(輸液、酸素、医師への報告時刻と指示内容)、用手整復の経過と結果(整復の成否、整復後の子宮底の位置)。
-
家族への説明: 医師から家族に対して「お産の後に子宮が裏返しになるまれな状態が起こりました。今、治療を急いで行っています。命に関わる状態ですので、緊急処置を優先させていただきます。」と説明してもらう。
先輩看護師の一言: 「分娩介助中、胎盤を取ろうとする時に『痛い!痛い!』と患者さんが叫んだら、まず手を止めて!内反症を疑って。子宮底を触らなくなるんだよね。パニックになりそうになるけど、『患者さんの命を守る』ために、まず医者を呼ぶ、太いルートを取る、酸素を付ける。この3つを迷わずできるようにしておこうね。知識があれば、怖がらずに動けるから。」