核心解説
この問題は、
ヒト絨毛性ゴナドトロピン (hCG: Human Chorionic Gonadotropin) の生理学的役割を問う、母性看護学・生殖生理の基本問題です。hCGは妊娠成立と維持に必須のホルモンであり、その作用を正しく理解することが鍵となります。
核心概念の分析 (Key Concept):
hCGは、受精卵が子宮内膜に着床した後、胎盤の前駆組織である
栄養膜細胞 (トロホブラスト: Trophoblast) から分泌される糖タンパクホルモンです。その主要な作用は、排卵後に形成された
黄体 (Corpus Luteum) を維持・刺激し、妊娠初期に必要な
プロゲステロン (Progesterone) の分泌を継続させることです。これにより、子宮内膜が安定して維持され、妊娠が継続します。
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! hCGの最も重要な生理作用は、排卵後にできた黄体の退行を防ぎ、その機能を維持することです。妊娠が成立しなければ黄体は約14日で退行しますが、hCGが分泌されることで黄体は妊娠黄体(Corpus Luteum Graviditatis)として機能を継続し、妊娠10週頃まで
プロゲステロン (Progesterone) と
エストロゲン (Estrogen) を分泌し続けます。この作用がなければ、子宮内膜が剥がれ落ち、妊娠初期の流産につながります。そのため、選択肢③「黄体の維持」が正解です。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
①
混同注意! 乳汁分泌の開始は、主に分娩後の
プロラクチン (Prolactin) の上昇と、エストロゲン・プロゲステロンの急激な低下によって引き起こされます。hCGには乳汁分泌促進作用はありません。
② 子宮内膜の増殖促進は、主に卵胞期に
エストロゲン (Estrogen) が行う作用です。hCGは黄体を介して間接的にプロゲステロン分泌を促し、内膜を分泌期に維持しますが、直接的な増殖作用ではありません。
④ 排卵の誘発は、視床下部-下垂体-卵巣系において、
LH(黄体形成ホルモン: Luteinizing Hormone) の急激な上昇(LHサージ)によって引き起こされます。hCGはLHと構造が類似しているため、排卵誘発剤として治療に用いられることがありますが、生理的な作用としては排卵誘発が主な役割ではありません。
⑤ 卵胞の発育促進は、主に卵胞刺激ホルモン(
FSH: Follicle Stimulating Hormone)の作用です。
関連概念の整理 (Related Concepts):
hCGは、妊娠検査薬(妊娠反応)の検出原理としても非常に重要です。妊娠初期の尿中または血中hCGを検出することで、妊娠の有無を判定します。また、hCGは
胞状奇胎 (Hydatidiform Mole) や
絨毛癌 (Choriocarcinoma) などの絨毛性疾患で異常高値を示すため、診断や治療経過のマーカーとしても利用されます。
混同注意! hCGと
hPL(ヒト胎盤ラクトゲン: Human Placental Lactogen) はどちらも胎盤から分泌されますが、hPLは母体の代謝調節や乳腺の発育に関与し、作用が異なります。
概念整理: hCGは「黄体維持ホルモン」であり、着床後に栄養膜細胞から分泌され、黄体を刺激してプロゲステロン分泌を継続させ、妊娠初期の子宮内膜を安定化させる。
一目で比較!:
| ホルモン | 分泌源 | 主な作用 |
| hCG | 栄養膜細胞(胎盤) | 黄体の維持 |
| FSH | 下垂体前葉 | 卵胞発育促進 |
| LH | 下垂体前葉 | 排卵誘発、黄体形成 |
| エストロゲン | 卵胞、黄体、胎盤 | 子宮内膜増殖促進 |
| プロゲステロン | 黄体、胎盤 | 子宮内膜分泌期維持 |
看護過程ポイント: 妊娠初期の看護アセスメントでは、hCG値の推移を理解することが重要。妊娠継続の確認や異所性妊娠(子宮外妊娠)、流産の評価において、hCGの上昇パターンを観察する。また、hCGを利用した妊娠検査薬の結果解釈や、陽性反応が出た際の母体への心理的支援も看護の役割。
暗記のコツ: 「hCG = human Chorionic Gonadotropin」→「C」は「Corpus Luteum(黄体)」の「C」!「絨毛(Chorion)から出て、黄体(Corpus Luteum)を守るホルモン」と覚えましょう。
国試頻出ポイント: hCGの作用(黄体維持)は頻出。合わせて、hCGが妊娠検査薬に利用される原理、胞状奇胎で異常高値となること、hPLとの違いもよく出題されます。特に「黄体の維持」というキーワードは、選択肢の中で他のホルモン作用と混同されやすいため、確実に暗記しておきましょう。