核心解説
この問題は、
せん妄 (Delirium) の病態生理と看護ケアの基本原則を問うています。
せん妄は、がん患者に高頻度で出現する急性の意識障害で、
注意障害、見当識障害、認知機能の変動、興奮または鎮静を特徴とします。病態生理は、脳の神経伝達物質のアンバランスや全身性の炎症・代謝異常が関与しており、特に夜間に症状が悪化する「日落ち現象(サンセット)」がみられます。看護ケアの核心は、
最重要!「原因の除去・治療」と「非薬物的環境調整」です。せん妄患者は、過剰な刺激と刺激不足の両方に脆弱であり、適度な感覚入力を保ちつつ見当識を支援することが重要です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
③の「見当識を保つため時計やカレンダーを置く」が最も適切な看護ケアです。
見当識障害 (Disorientation)はせん妄の主要症状であり、現在の時間・場所・状況がわからなくなることで不安や興奮が増強します。時計やカレンダーは常に視覚的な手がかりを提供し、患者の見当識を支援します。また、写真やなじみのある物品(自宅から持ってきた小物など)を病室に置くことも有効です。これにより、患者の不安を軽減し、せん妄の増悪を予防します。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
① 刺激を増やすためにテレビを常時つける →
混同注意! せん妄患者には過剰な感覚刺激(騒音、過度の照明、テレビのつけっぱなし)は症状を悪化させるため、
禁忌です。環境を静かに保ち、刺激を適度に調整(昼間は適度な明るさと活動、夜間は暗く静かに)することが基本です。
② 患者を身体拘束する →
混同注意! 身体拘束(四肢の抑制、ベッド柵の全閉鎖など)は患者の興奮や抵抗を増大させ、せん妄症状を悪化させるため、原則として
禁忌です。拘束は転倒・転落リスクを低下させると誤解されがちですが、むしろ事故リスクを高めるエビデンスがあります。やむを得ない場合は、最小限かつ一時的に、医師の指示のもと行うべきです。
④ 患者の言動を否定する →
混同注意! せん妄患者の言動(例:「ここはどこ?誰かに連れてこられた」など)を「それは間違いです」「そんなことありません」と否定することは、患者の不安と混乱を悪化させます。現実に即した方向付け(Reality Orientation)は重要ですが、否定ではなく「あなたは病院にいますよ」と穏やかに事実を伝える「バリデーション(受容)」と「リダイレクション(注意をそらす)」技法が有効です。
⑤ 夜間に頻回にバイタルサインを測定する →
混同注意! せん妄患者では睡眠-覚醒リズムの障害が生じており、夜間の睡眠確保が重要です。夜間に頻回にバイタルサインを測定することは患者を覚醒させ、睡眠を妨げ、せん妄を悪化させます。夜間の観察は必要最小限にとどめ、睡眠を優先する看護計画を立てます。
関連概念の整理 (Related Concepts)
混同注意! せん妄 (Delirium) と
認知症 (Dementia) の鑑別は国試頻出です。せん妄は急性発症・症状の日内変動が大きく・原因(感染症、薬剤、電解質異常、低酸素血症など)が特定可能で可逆性があります。一方、認知症は緩徐進行性で、症状の変動が少なく、不可逆的です。せん妄の予防・早期発見には、高齢がん患者へのせん妄スクリーニング(Confusion Assessment Method: CAM)の活用も押さえましょう。
概念整理: せん妄の3つのタイプ(過活動型・低活動型・混合型)のうち、低活動型は見落とされやすい(無気力・傾眠で評価されにくい)。過活動型は興奮・攻撃性が目立つため身体拘束に走りやすいが、
禁忌。見当識障害への対応は、すべてのタイプで共通して有効。
一目で比較!
| 特徴 | せん妄 (Delirium) | 認知症 (Dementia) |
|---|
| 発症 | 急性(数時間~数日) | 緩徐(数ヶ月~数年) |
| 経過 | 変動する(特に夜間増悪) | 進行性・安定傾向 |
| 原因 | 特定可能(感染・薬剤・代謝異常) | 不明(神経変性疾患が多い) |
| 可逆性 | 可逆(原因除去で改善) | 不可逆(根治困難) |
| 注意障害 | 顕著(注意が散漫) | 進行期に出現 |
| 見当識 | 変動あり | 徐々に低下 |
看護過程ポイント
- アセスメント:原因の特定(感染症・脱水・低酸素・薬剤(特に抗コリン薬・オピオイド・ベンゾジアゼピン)・疼痛・便秘・尿路感染症など)→ CAMによるスクリーニング
- 看護診断:
急性混乱 (Acute Confusion)、
転倒リスク (Risk for Falls)、
睡眠パターン障害 (Disturbed Sleep Pattern)
- 計画:非薬物的介入(環境調整・見当識支援・家族の協力・睡眠確保)が最優先。薬物療法(ハロペリドールなど抗精神病薬)は興奮が強い場合に医師指示で使用。
- 実施:穏やかな声かけ・同一スタッフによるケア・照明調整・夜間の観察最小化。
- 評価:症状の改善/増悪・原因の除去・睡眠の確保・転倒事故の回避。
暗記のコツ: 「せん妄ケアの3つのS」
1.
Stimulation reduction(刺激の軽減)→ 過剰刺激を避ける
2.
Sleep promotion(睡眠促進)→ 夜間の観察最小化・暗く静かに
3.
Sensory aids(感覚補助具の活用)→ メガネ・補聴器・時計・カレンダー
国試頻出ポイント: せん妄患者への看護ケアとして「見当識を支援する(時計やカレンダー)」は毎年のように出題されます。身体拘束や過剰な刺激を避けるべき理由を、病態生理(過覚醒と睡眠障害の悪化サイクル)と関連づけて理解しておきましょう。また、事例問題では「夜間に興奮が強く、家族が拘束を希望したが、看護師としてどう対応するか」という倫理的判断も問われます。
出題パターン注意!: 単純な知識問題(「せん妄の症状はどれか」)から、事例問題(「70歳女性、大腸がん術後3日目、夜間に『泥棒が来た』と興奮。看護師の対応で最も適切なのはどれか」)への発展が出題パターンです。事例問題では、まず原因(術後の感染症・薬剤・低酸素など)を疑い、その上で非薬物的対応(見当識支援・環境調整)を優先する思考が求められます。