核心解説
この問題は、
喀痰吸引 (Sputum Suctioning) の適応基準を問うています。喀痰吸引は、
気道内分泌物の貯留により呼吸状態が悪化している患者さんに対して、気道を確保し、酸素化を改善するために実施される看護技術です。患者さん自身で効果的に喀痰を排出できない状態であることが絶対条件であり、侵襲的な処置であるため、リスクとベネフィットを慎重に判断する必要があります。
1. 核心概念の分析 (Key Concept)
この問題の核は「吸引が必要な状態」を正しく理解することです。吸引の適応は、
気道分泌物による閉塞が原因で、呼吸困難(Dyspnea)や低酸素血症(Hypoxemia)などの臨床症状が出現している場合です。具体的には、
酸素飽和度 (SpO2) の低下、
呼吸音 (Breath Sounds) 上の粗い断続性ラ音(ゴロゴロ音)の聴取、患者の努力性呼吸やチアノーゼなどの徴候を総合的にアセスメントします。
2. 正解の根拠 (Answer Rationale)
選択肢①「
喀痰が咽頭に貯留し、呼吸状態が悪化している場合」は、吸引の最も典型的な適応です。
最重要! 喀痰が咽頭(Pharynx)という気道の入口に貯留していることは、気道閉塞のリスクが高く、呼吸状態の悪化(頻呼吸、努力呼吸、SpO2低下など)は低酸素血症の証拠です。このような場合、
速やかに気道を確保し、酸素化を改善するために吸引が必要です。
3. 誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! ②番「
パルスオキシメータの値が常に98%以上の場合」は、
正常な酸素化状態を示しており、吸引の適応とはなりません。吸引は低酸素血症の改善が目的の一つであるため、酸素化が維持されている場合は優先度が低いです。
③番「
混同注意! 患者が咳嗽反射(Cough Reflex)を認める場合」は、まずは患者自身の咳嗽による排痰を促すべきであり、吸引は侵襲的なため最後の手段です。咳嗽反射があるということは、自力排痰の可能性が残っていることを意味します。
④番「患者が喀痰の喀出を希望しない場合」は、患者の自己決定権(Nursing Ethics)を尊重すべきですが、呼吸状態の悪化が生命に関わる緊急時には、医師の指示のもとで患者の同意なしに処置が必要な場合もあります。ただし、基本的な適応は「喀出困難+呼吸状態悪化」です。
⑤番「
呼吸音にてラ音が聴取されない場合」は、気道内分泌物の貯留がない可能性が高く、吸引の適応とはなりません。ラ音(特に粗い断続性ラ音)は分泌物の存在を示唆する重要な聴診所見です。
概念整理:
喀痰吸引の適応
・
自力排痰困難(咳嗽反射減弱・消失、筋力低下、意識レベル低下)
・
気道分泌物貯留の徴候:呼吸音上の粗いラ音、咽頭での痰の貯留確認
・
低酸素血症:SpO2低下(
90%未満など)、チアノーゼ、呼吸困難
・
換気不全:無気肺(Atelectasis)や肺炎(Pneumonia)の予防・改善
一目で比較!:
吸引 vs 咳嗽による排痰
| 項目 | 喀痰吸引 | 咳嗽による排痰 |
|---|
| 適応患者 | 自力排痰困難 | 咳嗽反射あり、筋力十分 |
| 侵襲性 | 高い(気道粘膜損傷リスク) | 低い |
| 優先順位 | 呼吸状態悪化時 | 可能な限り優先 |
看護過程ポイント:
・
アセスメント:呼吸数、呼吸パターン、SpO2、咳嗽反射の有無、呼吸音、痰の性状(量、色、粘稠度)を評価。
・
看護診断:「気道クリアランスの効果的不能 (Ineffective Airway Clearance)」が該当。
・
計画・実施:吸引前の酸素投与、吸引圧(
成人:100~150mmHg)、吸引時間(
1回15秒以内)、無菌操作の厳守。
・
評価:吸引後の呼吸状態、SpO2、呼吸音の改善、痰の喀出状況。
暗記のコツ: 「
自力排痰できない+息が苦しそう」が基本フレーズです。パルスオキシメータの値が正常で、自分で咳ができる患者さんは、まずは「咳をしてみてください」と促しましょう。
国試頻出ポイント:
・ 吸引の適応/禁忌を問う問題。
・ 吸引の手順(特に吸引圧と時間、無菌操作)
・ 咳嗽反射の評価と、それに基づく介入の優先順位。
出題パターン注意!: 単純な知識問題として「適応はどれか」だけでなく、「事例問題で、患者の状態変化を読み取り、看護師が最初に行うべき行動として吸引を選択させる」形で出題されることもあります。例えば「術後患者のSpO2が低下し、呼吸音がゴロゴロしている。最初に何をするか」といった状況設定問題に発展します。