核心解説
この問題は、
移乗介助 (Transfer Assistance) における看護の基本原則である
「残存能力の活用 (Utilization of Remaining Abilities)」 を問うています。看護師がすべての動作を代わりに行うのではなく、患者自身が可能な動作は自分で行い、不足する部分だけを補助することで、
筋力維持・廃用症候群予防・自尊心の保持につなげます。これを
部分介助 (Partial Assistance) と呼びます。
1.
核心概念の分析: 移乗介助の方法は、患者の残存能力に応じて「自立」「監視」「部分介助」「全介助」に分類されます。問題のキーワードは「残存能力を最大限活用」であり、患者が主体的に行える動作を引き出す方法を選びます。車椅子からベッドへの移乗では、
立ち上がり動作 (Sit-to-Stand) が基本です。
2.
正解の根拠: ⑤番の「患者の両足を床につけ、手すりを使って立ち上がらせる」は、患者自身の下肢筋力と上肢の支持力を最大限に活用した方法です。
最重要! 看護師は必要に応じて腰部や骨盤を軽く支えることで安全を確保しつつ、患者の自立を促します。これは
段階的早期離床 (Progressive Early Mobilization) の考え方にも通じます。
3.
誤答の分析:
- ①番: 腋窩を抱えて持ち上げる方法は、
混同注意! 患者の腋窩神経叢を圧迫するリスクがあり、かつ看護師に大きな負担がかかる全介助に近い方法です。残存能力の活用にはなりません。
- ②番:
スライディングボード (Sliding Board) は、座位保持が可能で下肢に体重をかけられない患者に有効ですが、患者自身が上肢と体幹を使って体重を移動させる必要があります。問題の「立ち上がる」という動作を伴わないため、このケースでは最も残存能力を活用する方法とは言えません。
- ③番: 腰部を支えて引き寄せる方法は部分介助ですが、患者が主体的に立ち上がる動作を促すものではなく、看護師が主導権を握る形になります。
- ④番:
リフト (Lift) を使用するのは、全介助が必要な重度の麻痺や筋力低下がある患者に限定されます。残存能力を活用するという主旨からは最も遠い方法です。
4.
関連概念の整理: 移乗介助の選択は、患者の
Barthel Index (バーセル指数) や
FIM (機能的自立度評価法) などの評価に基づいて行います。立ち上がり動作が可能かどうかは、下肢筋力(特に大腿四頭筋)と体幹バランスが鍵となります。
概念整理: 残存能力の活用 =
患者の自立支援。全介助は最後の手段。まずは患者自身にできる動作を引き出し、不足分のみ看護師が補う。
一目で比較!:
| 介助方法 | 残存能力活用度 | 適応患者 |
|---|
| 手すり使用 + 立ち上がり (⑤) | 高い | 下肢筋力・上肢支持力がある |
| スライディングボード (②) | 中程度 | 座位保持可能 / 下肢荷重不可 |
| 腰部支持引き寄せ (③) | やや低い | 立ち上がり動作に不安がある |
| 腋窩抱え上げ (①) | 低い | ほとんど自力動作不可 |
| リフト使用 (④) | 最も低い | 全介助 / 体重負荷禁忌 |
看護過程ポイント:
アセスメント:移乗前に下肢筋力・バランス・理解力を評価。
看護診断:
身体可動性障害 (Impaired Physical Mobility) または
セルフケア不足 (Self-Care Deficit)。
計画:患者の残存能力に合わせた具体的な介助方法と段階的な自立目標を設定。
実施:声かけで動作を促し、安全確認を徹底。
評価:移乗動作の安全性と自立度の変化を定期的に再評価。
暗記のコツ: 「残存能力を活用」=「患者自身にやらせる。看護師は見守りと最低限の補助」と覚えてください。キーワードは「手すり」「立ち上がる」「足を床につける」です。
国試頻出ポイント: 移乗介助の方法とその根拠は、
基礎看護学の「日常生活行動の援助」分野で頻出です。特に「残存能力の活用」と「廃用症候群予防」を結びつけた問題がよく出題されます。
出題パターン注意!: 単純な知識問題として「どの方法が残存能力を活用するか」を問うだけでなく、「片麻痺の患者」「人工股関節置換術後」などの状況設定問題に発展します。その際、疾患・術式に応じた禁忌動作(例:股関節90度以上屈曲禁止)と組み合わせて考える必要があります。