核心解説
この問題は、
自律神経系 (Autonomic Nervous System) のうち、特に
交感神経 (Sympathetic Nervous System) と
副交感神経 (Parasympathetic Nervous System) の機能を正しく理解しているかを問う、基礎看護学・解剖生理学の基本問題です。自律神経系は、心臓、血管、気管支、消化管、瞳孔など、身体の不随意な機能を調節しており、これらの作用を正確に区別することが求められます。交感神経は「闘争か逃走か (Fight or Flight)」の反応を司り、身体を活動的な状態にする一方、副交感神経は「休息と消化 (Rest and Digest)」を促進します。
1. **
核心概念の分析 (Key Concept)**: この問題の核心は、各臓器における交感神経と副交感神経の相反する作用を理解することです。例えば、気管支においては、
交感神経が興奮すると気管支平滑筋が弛緩し気管支が拡張 (Bronchodilation) するため、呼吸が促進されます。これは、身体が活動的な状態に備えるための生理的反応です。一方、副交感神経が興奮すると気管支は収縮します。
2. **
正解の根拠 (Answer Rationale)**: ④番の「気管支拡張」が正解です。
最重要! 交感神経の作用は、ノルアドレナリン (Noradrenaline) を介して、気管支平滑筋のβ2受容体を刺激し、これを弛緩させることで気管支を拡張させます。これにより、より多くの酸素を取り込めるようになります。この作用は、気管支喘息発作時に使用されるβ2刺激薬(例:サルブタモール (Salbutamol))の薬理作用にも応用されています。
3. **
誤答の分析 (Distractor Analysis)**:
- **①番「縮瞳」**:
混同注意! 縮瞳(Miosis)は、副交感神経(動眼神経)の興奮により、瞳孔括約筋が収縮して起こります。交感神経が興奮すると、瞳孔散大筋が収縮し散瞳(Mydriasis)が生じます。
- **②番「消化管運動亢進」**:
混同注意! 消化管運動の亢進は副交感神経の作用です。交感神経が興奮すると、消化管運動は抑制され、血液は骨格筋や心臓へ優先的に送られます。
- **③番「発汗減少」**: 発汗(Sweating)は体温調節に関わる機能で、交感神経(コリン作動性線維)によって促進されます。したがって、交感神経の過剰興奮では発汗は増加(発汗増加)します。発汗減少は交感神経機能の低下や、抗コリン薬の副作用などで生じます。
- **⑤番「徐脈」**:
混同注意! 徐脈(Bradycardia)は、副交感神経(迷走神経 (Vagus Nerve))の興奮により、心拍数が低下することで生じます。交感神経が興奮すると、心拍数は増加(頻脈 (Tachycardia))します。
4. **
関連概念の整理 (Related Concepts)**: 自律神経の作用は、国家試験で頻出の「受容体」の知識と結びつけると理解が深まります。交感神経はα受容体とβ受容体を介して作用します。β1受容体は心臓(心拍数増加、収縮力増強)、β2受容体は気管支・血管(拡張)に分布します。この機序を押さえれば、降圧薬(β遮断薬)や喘息治療薬(β2刺激薬)の作用機序の理解にもつながります。
概念整理:
| 機能 | 交感神経興奮 | 副交感神経興奮 |
|---|
| 瞳孔 | 散瞳 (Mydriasis) | 縮瞳 (Miosis) |
| 気管支 | 拡張 (Bronchodilation) | 収縮 (Bronchoconstriction) |
| 心拍数 | 増加(頻脈) | 減少(徐脈) |
| 消化管運動 | 抑制 (Decreased Motility) | 亢進 (Increased Motility) |
| 発汗 | 促進(増加) | なし(コリン作動性交感神経) |
一目で比較!: 交感神経 vs 副交感神経を覚える語呂合わせの例:「交感神経は『戦う』→ 心臓ドキドキ(頻脈)、気管支パーッ(拡張)、消化はストップ(抑制)」。「副交感神経は『休む』→ 心臓トントン(徐脈)、気管支ギュー(収縮)、消化はモリモリ(亢進)」。
看護過程ポイント:
アセスメント:患者の症状が、交感神経優位(疼痛、不安、発熱、出血などによる生体防御反応)なのか、副交感神経優位(安静時、食後、迷走神経反射時)なのかをアセスメントします。バイタルサイン(心拍数、血圧、呼吸数)はその指標となります。
看護介入:交感神経過剰興奮が疑われる場合(例:術後疼痛による頻脈・高血圧)、
安静の確保、疼痛コントロール、不安の緩和が重要です。また、排泄ケアや処置中に迷走神経反射による徐脈や血圧低下(血管迷走神経反射)が生じることがあるため、観察を怠らないようにします。
暗記のコツ: 臓器ごとに「交感神経が興奮したらどうなるか」を、身体の「活動的」な状態(運動、恐怖、ストレス)をイメージしながら暗記しましょう。一方、副交感神経は「リラックス」や「食後」の状態をイメージします。「交感=気管支拡張、心拍増加」のセット、「副交感=縮瞳、消化促進」のセットで覚えると効果的です。
国試頻出ポイント: 自律神経系の機能は、解剖生理学の基礎としてほぼ毎年出題されます。また、ショック時の代償反応(交感神経亢進による頻脈)、抗コリン薬の副作用(交感神経優位状態)、有機リン中毒(副交感神経過剰興奮による縮瞳、徐脈、気管支収縮)など、臨床病態と結びついた形でも頻出です。
出題パターン注意!: 単純な知識問題に加え、「急変時の患者のバイタルサイン変化から交感神経系の反応を推定する」といった状況設定問題や、「ある薬剤の副作用として生じる自律神経症状を問う」問題にも発展します。