核心解説
この問題は、
細胞傷害 (Cell Injury) によって生じる基本的な病変の分類を問うています。細胞が傷害を受けると、まず可逆的な変化が現れ、傷害が重度になると不可逆的な変化へと進行します。このうち、細胞内に水分が貯留して腫大する病変は
水腫様変性 (Hydropic Degeneration) と呼ばれ、最も初期の可逆性病変の一つです。
1.
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! 水腫様変性 (Hydropic Degeneration) は、低酸素状態や毒素などによる細胞傷害の初期段階で、細胞膜上の
Na⁺-K⁺-ATPaseポンプ (Sodium-Potassium Pump) が障害されることで発生します。このポンプが機能不全に陥ると、細胞内へのナトリウム (Na⁺) 流入が制御できなくなり、浸透圧のバランスを保つために水分が細胞内に流入します。その結果、細胞質内に空胞(水胞)が出現し、細胞全体が腫大します。この変化は、原因となる傷害が取り除かれれば回復する
可逆性病変 (Reversible Injury) です。
2.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
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混同注意! ①番 硝子滴変性 (Hyaline Degeneration) は、細胞内に好酸性の均一な硝子様タンパク質が沈着する病変であり、水分貯留による腫大とは全く異なります。例としては、腎疾患における尿細管上皮細胞へのタンパク質の再吸収沈着などが挙げられます。
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③番 アポトーシス (Apoptosis) は、プログラムされた細胞死であり、細胞は萎縮し断片化されます。腫大とは逆のプロセスです。細胞傷害による受動的な死である
壊死 (Necrosis) とは区別されます。
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④番 脂肪変性 (Fatty Degeneration / Steatosis) は、主に肝臓などで細胞内に中性脂肪が過剰に蓄積する病変です。アルコール性肝障害や代謝障害で見られ、水腫様変性とは貯留する物質が異なります。
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⑤番 壊死 (Necrosis) は、細胞が不可逆的な傷害を受けて死に至った状態です。水腫様変性は壊死に至る前の段階であり、核の変化(濃縮、断片化、融解)を伴いません。
3.
関連概念の整理 (Related Concepts): 細胞傷害の進行を理解する上で、可逆性変化と不可逆性変化の違いは極めて重要です。可逆性変化には
水腫様変性 と
脂肪変性 が含まれ、不可逆性変化には
壊死 と
アポトーシス が含まれます。壊死はさらに凝固壊死、融解壊死、乾酪壊死、脂肪壊死などに分類されます。
概念整理:
細胞傷害の初期可逆性変化
| 病変名 | 主な原因/機序 | 細胞内蓄積物 |
| 水腫様変性 | Na⁺-K⁺ポンプ障害(低酸素、毒素) | 水分と電解質 |
| 脂肪変性 | 低酸素、中毒、代謝障害 | 中性脂肪 |
一目で比較!:
水腫様変性 vs 脂肪変性
| 項目 | 水腫様変性 (Hydropic Degeneration) | 脂肪変性 (Fatty Degeneration) |
| 蓄積物 | 水分 (Water) | 脂肪 (Fat) |
| 代表的臓器 | 腎臓(尿細管)、肝臓 | 肝臓(肝細胞)、心臓 |
| 可逆性 | 可逆性 (Reversible) | 可逆性 (Reversible) |
看護過程ポイント: この病態を理解することは、術後や重症患者の細胞障害のサインを早期に察知する基礎となります。アセスメントでは、
低酸素状態 や
電解質異常 の原因(ショック、呼吸不全、腎不全など)をモニタリングし、水腫様変性が全身性の浮腫や臓器障害へ進行するのを予防する視点が重要です。
暗記のコツ: 「水腫」=「水」+「腫れる」と覚えましょう。「水で腫れる(浮腫む)」変性、つまり細胞内に水が溜まって腫れているイメージです。Na-Kポンプが「水のポンプ」の役割を果たしていると考えてください。
国試頻出ポイント: 細胞傷害の分類は、病理学の基礎として頻出です。特に「可逆性変化(水腫様変性、脂肪変性)」と「不可逆性変化(壊死の各タイプ)」の区別、およびそれぞれの定義を問う問題がよく出題されます。選択肢の中に「硝子滴変性」や「アポトーシス」など類似用語が混ざっているため、定義を正確に覚えましょう。
出題パターン注意!: 単純な定義問題だけでなく、「慢性心不全の患者の肝臓に見られる細胞内変化はどれか」といったように、特定の病態と結びつけて出題されることもあります。その場合は、低酸素状態が持続することで肝細胞に脂肪変性や水腫様変性が生じる可能性を考慮する必要があります。