核心解説
この問題は、
脊髄 (Spinal Cord) の内部構造と、各伝導路が担う感覚モダリティ(感覚の種類)を理解しているかを問うています。脊髄は大きく分けて、後索(後索路)、側索(脊髄視床路、皮質脊髄路など)、前索に区分され、それぞれ異なる情報を伝達します。
最重要! 後索 (Posterior Column / Dorsal Column) は、
後索-内側毛帯路 (Dorsal Column-Medial Lemniscus Pathway) を構成し、主に
識別性触覚 (Discriminative Touch)、振動覚 (Vibration Sense)、位置覚(深部感覚)(Proprioception / Position Sense) を大脳皮質へ伝えます。この伝導路は、末梢から脊髄後根に入り、後索を上行し、延髄の後索核(薄束核・楔状束核)でニューロンを変え、内側毛帯として交叉し、視床を経由して大脳皮質感覚野に達します。したがって、後索が障害されると、これらの感覚が障害されます。
正解の根拠 (Answer Rationale):
正解は⑤振動覚の消失です。 上記の通り、振動覚は後索-内側毛帯路を伝わるため、後索障害で障害されます。深部感覚(位置覚)や識別性触覚も同様に障害されることが多いです。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
①番の筋力低下:筋力(運動機能)は、主に
皮質脊髄路(錐体路)(Corticospinal Tract / Pyramidal Tract) を伝わります。後索は感覚路であり、運動路は側索や前索を下行します。よって、後索障害で筋力低下は生じません。
②番の触覚の消失:注意が必要です。「触覚」には粗大触覚と識別性触覚があります。粗大触覚は
混同注意! 脊髄視床路(前脊髄視床路)も一部関与しますが、識別性触覚は後索路を伝わります。問題文では単に「触覚」とあるため、すべての触覚が消失するわけではなく、後索障害では識別性触覚は障害されますが、粗大触覚は比較的保たれることが多いです。したがって「触覚の消失」は不正確です。
③番の痛覚の消失、④番の温度覚の消失:これらは
脊髄視床路(外側脊髄視床路)(Spinothalamic Tract / Lateral Spinothalamic Tract) を伝わります。後索とは全く異なる伝導路であるため、後索障害では痛覚・温度覚は
保たれます。
関連概念の整理 (Related Concepts): 脊髄の伝導路は、
国試頻出の最重要項目です。以下の表で整理しておきましょう。
| 伝導路 | 脊髄内の位置 | 伝える感覚 | 交叉部位 |
|---|
| 後索-内側毛帯路 | 後索 | 識別性触覚、振動覚、位置覚 | 延髄(毛帯交叉) |
| 脊髄視床路(外側) | 側索 | 痛覚、温度覚 | 脊髄(前交連) |
| 脊髄視床路(前側) | 前索 | 粗大触覚、圧覚 | 脊髄(前交連) |
混同注意! 「後索障害」と「脊髄空洞症(Syringomyelia)」を混同しないでください。脊髄空洞症では、脊髄中心管周囲の空洞形成により、脊髄視床路の交叉線維(前交連)が最初に障害され、
解離性感覚障害 (Dissociated Sensory Loss) として「温痛覚のみ障害され、触覚・振動覚は保たれる」という特徴的所見を示します。
概念整理: 脊髄の感覚伝導路の局在を「後索=識別性触覚・振動覚・位置覚」「脊髄視床路=温痛覚」と明確に区別して理解する。
一目で比較!:
| 障害部位 | 主な症状 | 代表疾患 |
|---|
| 後索 | 振動覚・位置覚障害、感覚性運動失調(ロンベルグ徴候陽性) | 脊髄癆(梅毒の晩期合併症)、脊髄後索症候群 |
| 脊髄視床路(側索) | 対側の温痛覚障害 | 脊髄半切症候群(ブラウン・セカール症候群) |
| 皮質脊髄路(側索) | 同側の錐体路症状(痙性麻痺、腱反射亢進) | 脊髄損傷、多発性硬化症 |
看護過程ポイント:
アセスメント: 脊髄障害患者の神経学的アセスメントでは、必ず「どの感覚が障害されているか」を詳細に評価する(触覚、痛覚、温度覚、振動覚、位置覚をそれぞれ評価)。特に、皮膚の損傷リスク(褥瘡予防)や転倒転落リスクの評価に直結する。
計画・実施: 振動覚・位置覚が障害された患者は、歩行時に視覚代償が必要(歩行器の使用、照明確保)。温痛覚が保たれている患者でも、皮膚への過度な圧迫や熱傷には注意が必要。
暗記のコツ: 「後ろの席(後索)で、振る(振動覚)・触る(識別性触覚)・位置(位置覚)を覚える(後索-内側毛帯路)」。「痛い(痛覚)・暑い(温度覚)は、側(側索)に逃げる(脊髄視床路)」と覚えましょう。
国試頻出ポイント: 「どの伝導路がどの感覚を伝えるか」は毎年のように出題される基本中の基本です。また、脊髄半切症候群(ブラウン・セカール症候群)との関連で、障害部位(後索、脊髄視床路、皮質脊髄路)と症状の組み合わせを問う問題も頻出です。
出題パターン注意!: 「脊髄後索障害の患者。歩行時にふらつきがみられる(感覚性運動失調)。この患者の安全を守るための看護介入として適切なのはどれか?」のように、病態を踏まえた看護介入を問う状況設定問題に発展します。単なる知識暗記ではなく、「この症状がある患者にどんなリスクがあり、どんなケアが必要か」まで考えられるようにしておきましょう。