看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
あなたは外科病棟の看護師です。52歳、肥満症で腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を受けた患者Aさんを術後6時間で受け持ちました。バイタルサインは安定していますが、Aさんは「左の肩がずきずき痛む」と訴え、腹部を触診すると張りがあり、聴診では腸蠕動音がほとんど聞こえません。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
即時アセスメント:バイタルサイン(特に心拍数、血圧、呼吸数、SpO2、体温)を再測定し、変化がないか確認します。腹部の視診・触診・聴診を詳細に行い、圧痛の有無、筋性防御(腹筋の硬直)がないかを確認します。
2.
医師への迅速な報告 (SBAR形式):
- S (状況):「術後6時間の胃切除術患者Aさんにて、左肩痛、腹部膨満、腸蠕動音減弱を認めます。」
- B (背景):「本日、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を受けられました。」
- A (評価):「バイタルは現在安定していますが、吻合部漏や腹腔内出血、腹膜炎の初期徴候の可能性が考えられます。」
- R (提案):「診察と、必要に応じて血液検査やCT検査のご指示をお願いできますか?」
3.
患者の安楽確保と観察継続:医師の指示を待つ間も、患者の状態を頻回に観察します。安静を保ち、必要に応じて酸素投与の準備をします。患者とご家族に、今何を確認しているのかを簡潔に説明し、不安を軽減します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
・
「痛み止めで様子を見よう」は禁忌:鎮痛剤で痛みをマスクしてしまうと、病状の悪化に気づくのが遅れ、致命的な状況になりかねません。まずは原因を明確にすることが最優先です。
・
経口摂取の禁止:腹腔内合併症が疑われる間は、絶飲食(NPO)を継続し、医師の指示があるまで再開してはいけません。
看護処置と与薬フロー
この段階での主な「処置」は、
アセスメントと報告です。医師の指示により、以下の対応が行われる可能性があります。
1. 緊急採血(炎症反応:CRP、白血球数、貧血の有無など)。
2. 造影CT検査の手配。
3. 輸液ラインの確保と輸液速度の調節(脱水や循環血液量減少への対応)。
4. 広域スペクトラム抗菌薬の投与開始(感染症が疑われる場合)。
先輩看護師からの一言
「術後患者さんは、『手術が終わったからもう大丈夫』ではなく、『これから合併症が起こるかもしれない最も注意が必要な時期』に入ったのです。看護師の鋭い観察眼が、患者さんの命を救います。バイタルサインの数字だけを追うのではなく、患者さんの『顔色』『訴え』『お腹の張り具合』といった、数値化できないけれど極めて重要なサインに常にアンテナを張っておきましょう。国試で学ぶ『危険な所見の組み合わせ』は、まさに臨床で使う知識そのものなんですよ!」