看護学のコア解説
この問題は、
股関節後方脱臼 (Posterior hip dislocation) の直後における、
最優先の看護介入 (Priority nursing intervention) を問うています。外傷直後のケアでは、
ここがポイント! 「二次的な損傷を防ぎ、合併症を予防する」ことが最優先となります。股関節脱臼は単に関節が外れているだけでなく、重要な神経や血管を損傷するリスクが高いため、迅速かつ適切な初期対応が不可欠です。
重要概念の分析 (Key Concept)
股関節後方脱臼は、交通事故などで膝を曲げた状態で大腿骨(太ももの骨)に強い力が加わり、大腿骨頭が後方(お尻側)に押し出される損傷です。この際、
坐骨神経 (Sciatic nerve) が損傷されるリスクが非常に高く、足首や足の感覚・運動障害(下垂足など)を引き起こす可能性があります。また、
大腿動脈 (Femoral artery) への影響も懸念されます。したがって、看護の第一目標は、
神経血管障害 (Neurovascular compromise) の予防と、整復前のさらなる損傷の防止です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は④「患者が楽な体位を保ち、患肢を固定する」です。その理由は以下の通りです。
1.
固定による損傷の防止: 患肢を動かさずに固定することで、脱臼した骨頭が周囲の軟部組織(神経、血管、関節包)をさらに損傷するリスクを最小限に抑えます。
2.
神経血管状態の維持: 固定は、神経血管の状態を安定させ、評価しやすくします。患肢の動揺は、損傷された神経や血管に繰り返しストレスをかけ、状態を悪化させる可能性があります。
3.
疼痛管理への寄与: 固定は患部の動きを制限し、それ自体が疼痛緩和に役立ちます。患者が「楽な体位」を選択できるように支援することは、患者中心のケアであり、不安や緊張を軽減します。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
① 患側の股関節にアイスパックを1時間毎に20分間当てる:
混同注意! 腫脹や疼痛を軽減するための重要な介入ではありますが、これは「最優先」ではありません。神経血管障害のリスクを直ちに減らす固定に比べ、二次的なケアです。また、アイシングは血管収縮を引き起こすため、神経血管評価の妨げにならないよう注意が必要です。
② 合併症予防のため早期離床を促す:
禁忌です。 股関節脱臼は整復(元に戻す処置)が必要な緊急状態です。整復前や固定前の動員は、損傷を悪化させ、神経血管障害のリスクを著しく高めます。
③ 下肢を伸ばした仰臥位に患者を置く:
混同注意! 股関節後方脱臼では、患肢は通常、
股関節の屈曲・内転・内旋 (Flexion, adduction, and internal rotation) という特徴的な肢位をとります。下肢を伸ばして仰向けにすることは、この自然な肢位を無理に変えようとする可能性があり、疼痛を増強させ、損傷を悪化させる恐れがあります。
関連概念の整理 (Related Concepts)
-
神経血管評価 (Neurovascular assessment): 固定後も継続的に実施すべき最重要アセスメントです。覚えておくべき頭文字は「
5P」または「
6P」です。
- Pain(疼痛): 安静時や他動運動時の疼痛の有無・程度。
- Pallor(蒼白): 皮膚色の変化。
- Paresthesia(感覚異常): しびれ、チクチク感。
- Paralysis(麻痺): 随意運動の障害。
- Pulselessness(脈拍消失): 末梢動脈(足背動脈、後脛骨動脈)の触知。
- Poikilothermia(冷感): 皮膚温の低下。
-
整復 (Reduction): 医師による緊急処置です。通常、鎮静・鎮痛下で行われ、その後は牽引や装具による固定が行われます。
概念のまとめ
股関節後方脱臼の急性期看護の優先順位は、「
Do No More Harm(これ以上害を与えない)」。具体的には、
①固定による二次損傷の防止 → ②神経血管状態の継続的評価 → ③疼痛・不安への対応 → ④整復処置への準備の順です。
一目で比較!
| 介入 | 評価 | 理由 |
|---|
| 患肢の固定(最優先) | 二次損傷・神経血管障害の予防 | 整復前の基本。動かすことで神経・血管損傷のリスクが高まる。 |
| アイシング | 腫脹・疼痛の軽減 | 重要だが二次的ケア。固定の後に行う。血管収縮に注意。 |
| 早期離床 | 禁忌 | 整復前の動員は損傷を悪化させる。 |
| 特定の肢位の強制 | 損傷の悪化リスク | 患者の楽な肢位(通常は屈曲・内転・内旋)を尊重する。 |
解剖生理と薬理のポイント
坐骨神経は、腰椎・仙骨から出て臀部を通り、大腿後面から下腿・足へと走行する人体最大の神経です。股関節後方脱臼では、脱臼した大腿骨頭がこの神経を直接圧迫または伸張することで損傷します。坐骨神経は足首の背屈(つま先を上げる動き)を司るため、損傷すると「
下垂足 (Foot drop)」が生じます。これが神経血管評価で「麻痺(Paralysis)」をチェックする理由です。
暗記のコツとゴロ合わせ
股関節後方脱臼の特徴的な肢位は「
屈曲・内転・内旋」。ゴロ合わせで「
股関節が後ろに抜けたら、内に内に丸まる(内転・内旋)」と覚えましょう。また、優先順位は「
固定が一番、動かすな危険」。
国試頻出ポイント
股関節脱臼は「
神経血管評価」とセットで出題されることが非常に多いです。特に「
坐骨神経損傷」とその兆候(下垂足、下腿・足の感覚障害)を問う問題や、観血的整復後の合併症(
大腿骨頭壊死 (Avascular necrosis of the femoral head))についても出題されます。
国試出題パターンの変化に注意!
単に「正しい看護はどれか」だけでなく、「神経血管評価で看護師が確認すべき項目はどれか(5Pから選択)」、「坐骨神経損傷が疑われる所見はどれか」、「整復後、牽引療法中の患者の看護で適切なのはどれか」など、
評価→介入→合併症予防という流れで多角的に出題される傾向があります。常に「なぜそのケアが必要なのか」を病態生理と結びつけて理解しておきましょう。