看護学のコア解説
この問題は、
経尿道的切除術 (Transurethral Resection of the Prostate, TURP) を受ける
前立腺肥大症 (Benign Prostatic Hyperplasia, BHP)患者に対する、
術前看護介入の優先順位を問うています。特に、
TURP症候群 (TURP syndrome)という重篤な合併症の予防に焦点が当てられています。
重要概念の分析 (Key Concept)
TURPは、尿道から内視鏡を挿入し、肥大した前立腺組織を電気メスで削り取る手術です。この際、手術野を広げ、出血を洗い流すために大量の
灌流液 (Irrigation fluid)(通常は非電解質液のグリシン液など)が持続的に膀胱内に注入されます。この灌流液が切開された静脈叢から血管内に吸収されると、
ここがポイント! 循環血液量の急激な増加(水分過剰)と、
ナトリウムなどの電解質の希釈(低ナトリウム血症)を引き起こします。これがTURP症候群の本質です。症状には、血圧変動、徐脈、悪心・嘔吐、錯乱、痙攣、呼吸困難などがあり、重篤な場合は死に至る可能性があります。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解の②「十分な水分補給と電解質バランスのモニタリングを確実に行う」が最も重要な理由は、
TURP症候群の予防と早期発見に直結するからです。術前から適切な水分摂取と電解質バランスを整えておくことは、術中の灌流液吸収による体内環境の急激な変化に対する予備能力を高めます。また、術前のベースライン(基準値)を知っておくことで、術後の変化をより敏感に検知できます。この介入は、
混同注意! 単なる「水分を取らせる」ことではなく、
術前アセスメントの一環としての体液・電解質バランスの評価と管理という高度な看護判断を含んでいます。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
① 予防的抗菌薬の投与:確かに感染予防は重要ですが、TURPに特化した
最も重篤な合併症(TURP症候群)の予防という観点では、優先度が下がります。抗菌薬投与は医師の指示に基づく標準的な術前準備です。
③ 深呼吸・咳嗽訓練の指導:呼吸器合併症(無気肺、肺炎)の予防として極めて重要です。しかし、TURPという
特定の手術に起因する、生命に関わる特有の合併症の予防という点では、②に比べると一般性が高く、優先順位は後回しになります。
④ 連続的空気圧迫装置の装着:深部静脈血栓症 (Deep Vein Thrombosis, DVT) の予防策です。高齢者や手術患者では重要な介入ですが、TURP症候群という
手術そのもののメカニズムから直接生じる合併症の予防とは直接的な関連が薄いため、優先度は低くなります。
関連概念の整理 (Related Concepts)
・
TURP症候群の症状:初期は血圧上昇、徐脈、その後、低ナトリウム血症による神経症状(頭痛、視覚障害、錯乱、痙攣)や肺水腫による呼吸困難が出現。
・
看護のポイント:術中・術後の灌流液の出入量を厳密に記録し、吸収量を推定します。また、意識レベル、バイタルサイン(特に脈拍と血圧)、呼吸状態の変化に常に注意を払います。
概念のまとめ
・ 核心:TURPの最大の合併症リスクは「灌流液の血管内吸収」による「TURP症候群」。
・ 予防の鍵:術前からの適切な水分・電解質管理と、術中術後の厳密なモニタリング。
・ 看護判断:すべての術前ケアの中で、
その手術に特有の重篤な合併症を予防する介入を最優先する。
一目で比較!
| 術前看護介入 | TURP症候群予防との関連 | 優先度(本問の文脈) |
|---|
| 水分・電解質管理 | 直接的。術前状態を整え、変化を早期発見。 | 最優先 |
| 予防的抗菌薬投与 | 間接的(感染予防全般)。 | 標準的準備 |
| 呼吸訓練指導 | 間接的(呼吸器合併症予防)。 | 重要だが一般性が高い |
| 血栓予防装置 | ほとんど関連なし(DVT予防)。 | 他のリスク要因による |
解剖生理と薬理のポイント
・ 前立腺は膀胱の真下に位置し、尿道を取り囲んでいます。肥大により尿道が圧迫され、排尿障害をきたします。
・ TURPで使用される灌流液(例:グリシン液)は、
非電解質・低張液です。これが血管内に吸収されると、血漿浸透圧が低下し、水分が血管外(細胞内や組織間隙)に移動し、脳浮腫や肺水腫を引き起こすメカニズムです。
暗記のコツとゴロ合わせ
・
「TURPは水(灌流液)が怖い」とイメージしましょう。手術そのものより、使用する「水」の管理が看護の核心です。
・ TURP症候群の症状は「
血圧が上がって(初期)、頭がおかしくなり(低Na)、息が苦しくなる(肺水腫)」と流れで覚える。
国試頻出ポイント
TURPに関する国試では、
「TURP症候群」の病態・症状・看護(観察ポイント)が非常に高い頻度で出題されます。特に「術後1〜2時間以内の急変」というタイミングと、「灌流液の吸収」が原因であることを必ず押さえましょう。
国試出題パターンの変化に注意!
「術前ケア」を問う問題から、「術直後の観察項目」や「TURP症候群が疑われるときの看護師の最初の行動(医師への報告、点滴速度の調整など)」を問う問題へと発展するパターンがあります。基本の病態を理解していれば、どのパターンにも対応できます。