看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
内科病棟で、上記の患者さんを受け持ちました。朝の採血・検尿結果が戻り、血糖値380 mg/dL、尿ケトン体(++)と報告されました。患者さんは「少しだるい、喉が渇く」と訴えています。バイタルサインは、血圧142/88 mmHg、脈拍110回/分(整)、呼吸数24回/分、体温36.8℃です。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
即時アセスメントと報告:意識レベル(JCSやGCS)、脱水所見(皮膚ツルゴール、口腔内乾燥)、呼吸状態(深く大きなクスマウル呼吸の有無)、バイタルサインを確認します。これらの情報とともに、
直ちに主治医に報告します。
2.
緊急処置の準備と協働:医師の指示に基づき、
生理食塩水による輸液と
持続インスリン静脈内注入 (Continuous IV insulin infusion)の準備をします。カリウムなどの電解質補正も行われるため、モニタリングが重要です。
3.
頻回なモニタリング:初期は1時間毎、状態安定後も数時間毎に、血糖値、電解質(特にカリウム)、動脈血液ガス分析、バイタルサイン、尿量・尿中ケトン体を測定・観察します。
4.
患者の安全と安楽の確保:意識レベルが変化する可能性があるため、転落・転倒予防策を講じます。脱水による口渇に対しては、医師の指示に従い水分摂取を許可・援助します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
混同注意! DKA治療中の最も危険な合併症の一つは
低カリウム血症 (Hypokalemia)です。インスリン投与と acidosis の是正により、カリウムが細胞内に急速に移動するため、血清カリウム値は急激に低下します。
カリウム値が正常範囲(3.5-5.0 mEq/L)を下回る前に、予防的なカリウム補充が行われることが一般的です。 心電図モニタリングでT波の平低化やU波の出現に注意します。
看護処置と与薬フロー
| ステップ | 看護介入 | 根拠と注意点 |
|---|
| 1. アセスメント | バイタルサイン、意識レベル、脱水徴候、呼吸パターン、血糖・尿ケトン体値を確認。 | 病態の重症度と緊急性を判断する。 |
| 2. 報告 | 異常所見を医師に迅速・正確に報告。SBAR形式が有用。 | 治療開始を遅らせない。 |
| 3. 輸液管理 | 指示された輸液(通常は生理食塩水)を確実に投与。滴下速度を厳守。 | 細胞外液補充と高血糖是正の第一歩。心不全患者では速度調整に注意。 |
| 4. インスリン投与 | 持続インスリン注入ポンプをセットアップ。専用のラインを使用。 | 血糖値の急激な低下(通常は1時間に50-75 mg/dL程度)を防ぐため、注入速度を厳密に管理。 |
| 5. モニタリング | 血糖(1-2時間毎)、電解質(2-4時間毎)、動脈血ガス、バイタルサイン、尿量を計測・記録。 | 治療効果と合併症を早期発見。特に低血糖と低カリウム血症に警戒。 |
先輩看護師からの一言
「複数の慢性疾患を持つ患者さんは、『どれも問題』に見えて、どこから手を付ければいいか迷うことがありますよね。そんな時は、『今、この瞬間に命に関わることは何か?』と自分に問いかけてみてください。慢性的な数値の悪化と、急性の代謝危機は全く次元が違います。DKAは看護師の迅速なアセスメントと報告が予後を大きく左右する代表的な病態です。検査データの『数字』を単なる値ではなく、『患者さんの体の中で今何が起きているのか』という物語として読み解く力を、国試勉強を通じて養っていきましょう!」