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在宅療養者の状態・状況にあわせた看護
在宅で療養中の認知症(アルツハイマー型)の患者。訪問看護師が訪問すると、患者は「財布を盗まれた」と興奮して妻を責めている。この状況での看護師の対応として最も適切なのはどれか。
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1
財布がないことに困惑している妻に、患者の言動を無視するよう指導する。
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2
患者の話を一旦受け入れ、「一緒に探しましょう」と提案する。
✓ 正解
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3
「奥さんが盗ったわけではありませんよ」と妻を擁護する。
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4
警察に通報するよう妻に勧める。
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5
興奮を鎮めるため、鎮静薬の内服を促す。
解説
認知症患者の物盗られ妄想は、記憶障害に基づく症状であり、患者にとっては現実の出来事である。否定や説得は患者の不安や興奮を増強させる。まずは患者の気持ちを受け止め、一緒に探すなど共感的な対応をすることで、患者の不安を軽減し、症状の悪化を防ぐことができる。妻を擁護する発言は患者の怒りを増幅させる可能性がある。鎮静薬は最終手段であり、まずは非薬物的対応を優先する。妻への無視の指導は介護者の負担を増やす。警察への通報は適切ではない。
同じテーマの次の問題在宅で療養中の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者。病状の進行により呼吸筋力が低下し、夜間の不眠と日中の傾眠が出現している。在宅看護において、この時期の患者に最も適切な対応はどれか。この問題が収録された問題集在宅看護論、地域・在宅看護論KRW 12,900
核心解説
この問題は、認知症(アルツハイマー型)(Alzheimer's Disease) の患者に特徴的な物盗られ妄想への対応を問うています。中核となる病態は、最重要! 記憶障害 (Memory Impairment)、特に近時記憶の障害により、自分で物を置いた場所を忘れてしまうことです。患者にとっては「財布がなくなった」という事実から「誰かが盗んだ」という結論に至ることは、不安から自分を守るための心理的反応であり、本人にとっては疑いようのない「現実」です。したがって、この心理を理解し、受容と共感に基づく非薬物的介入 (Non-pharmacological Intervention) が最も重要となります。
正解の根拠: 患者の不安や興奮の背景には、「財布がない」という事実に対する強い困惑と恐怖があります。選択肢2の「患者の話を一旦受け入れ、『一緒に探しましょう』と提案する」ことは、患者の感情に寄り添いながら、問題解決に向けて協力する姿勢を示す、最も適切な心理的アプローチです。これにより、患者は敵意を向ける相手がいなくなり、安心感を得て興奮が軽減します。
誤答の分析:
混同注意! ③の「『奥さんが盗ったわけではありませんよ』と妻を擁護する」は、患者の訴えを真正面から否定する行為です。これは患者の自尊心を傷つけ、「自分の話を信じてもらえていない」という孤立感と怒りを増幅させ、症状の悪化を招きます。認知症ケアでは「否定しない」ことが鉄則です。また、①の「無視するよう指導する」は、妻の対応を修正するように見えますが、患者の心理的ニーズを無視する対応を推奨しており、患者の不安を増強し、行動・心理症状 (BPSD) を悪化させるリスクがあります。
関連概念の整理: 認知症の行動・心理症状 (BPSD) に対するケアの基本原則は「受容・共感・傾聴」です。物盗られ妄想に限らず、帰宅願望や暴言などに対しても、まず背景にある患者の不安や心理的ニーズを理解することが介入の第一歩となります。薬物療法(⑤鎮静薬)は、非薬物的介入で対応しきれない場合の最終手段であることを忘れてはいけません。
概念整理
- 物盗られ妄想: 近時記憶障害を背景に、物を置き忘れたことを「盗まれた」と確信する認知症特有の症状。患者にとっては現実であり、不安や喪失感への防衛反応。
- 受容 (Acceptance): 患者の言葉を事実として認めるのではなく、「そう感じているんだね」と、その感情や体験世界をありのままに受け入れること。
- バリデーション (Validation): 患者の言動の裏にある感情をくみ取り、共感し、その感情が正当なものであると認めるコミュニケーション技法。
一目で比較!
| 対応 | 目的 | 結果 |
|---|
| 受容・共感(一緒に探す) | 不安の軽減、信頼関係の構築 | 興奮の沈静化、安心感の提供 |
| 否定・説得 | 誤りを正そうとする | 興奮の増悪、自尊心の低下、関係性の悪化 |
| 無視・放置 | 症状を強化しない | 孤立感、不安の増大、症状の悪化 |
看護過程ポイント
- アセスメント: 興奮の原因は本当に「財布がない」ことか?空腹、排泄欲求、身体的不快感(痛み・かゆみ)がないかも同時にアセスメントする。
- 看護診断: 思考過程の混乱、状況的自信低下、介護者役割緊張
- 実施: 「一緒に探す」という行動を共にすることで、患者に役割を与え、自尊心の回復を促す。無事に「発見」できた場合は「よかったですね」と共に喜ぶ。
暗記のコツ
認知症ケアの「3つの“ない”」: 驚かせない、急がせない、自尊心を傷つけない。特に物盗られ妄想では「否定しない」が最も重要なキーワードです。「一緒に」という言葉がけは、患者を孤立させず、味方であることを示す強力なツールです。
国試頻出ポイント
在宅看護論、老年看護学の状況設定問題で頻出です。アルツハイマー型認知症に限らず、血管性認知症やレビー小体型認知症の事例でも、BPSDへの非薬物的介入の優先順位が問われます。「最初に行うべき対応」「最も適切な声かけ」という形で出題されるため、介入の優先順位(非薬物→薬物)を明確に理解しておきましょう。
出題パターン注意!
単に「最も適切な声かけはどれか」という形だけでなく、「この患者の症状の原因を説明する病態はどれか」(近時記憶障害)という基礎問題や、「妻への指導として正しいのはどれか」という家族支援に焦点を当てた出題も予想されます。
臨床実践ガイド- 1臨床シナリオ (Clinical Scenario)在宅で療養する80歳のアルツハイマー型認知症の女性。訪問看護師が定期訪問すると、いつも穏やかな患者が「娘が私の年金を盗んでいる」と激しく興奮し、娘(主介護者)は疲れ切った表情で涙ぐんでいる。患者は数分前にも同じ訴えを繰り返しており、看護師の顔を見ても落ち着く様子がない。
- 2看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment)まず、娘から少し距離を置いてもらい、患者と1対1で向き合える静かな環境を整えます(環境調整)。患者の目線に合わせ、「そうでしたか。それは心配ですね。〇〇さん(患者)が大切にしているものがなくなったら、誰だって嫌な気持ちになりますよ」と、感情に共感する声かけ(バリデーション)から始めます。決して訴えの内容を否定せず、安心感を与えることを優先します。「私も一緒に、いつもしまっておく場所を探してみてもいいですか?」と、具体的な行動を提案することで、患者の意識を協力作業へと向けます。
- 3患者安全・注意事項 (Patient Safety & Precautions)最重要! 興奮している患者をなだめようと、身体を強くつかんだり、大きな声で制止したりすることは、恐怖心を煽り、暴力行為に発展するリスクがあるため絶対に行ってはいけません。薬物による鎮静は、転倒・過鎮静・日常生活動作 (ADL) 低下のリスクがあるため、医師の指示のもと、非薬物的介入で効果がない場合の最終手段として慎重に検討します。
看護プロトコル- 1観察項目興奮の程度、バイタルサイン、表情、言動の内容、不穏の持続時間、出現のきっかけ(時間帯、環境変化、身体的不調の有無)。
- 2報告基準 (SBAR)(S) 状況:患者が物盗られ妄想により興奮状態です。(B) 背景:アルツハイマー型認知症、近時記憶障害あり。最近、服薬変更や環境変化はありません。(A) アセスメント:妄想による一時的な興奮であり、身体的疾患の急性発症は否定的です。(R) 提案:非薬物的介入を継続し、効果不十分な場合や暴力行為に発展する可能性があれば、主治医への往診または頓服薬使用の相談を検討します。
- 3記録のポイント妄想の具体的内容、患者の言動とそれに対する看護師の介入内容、介入後の患者の反応を時系列で客観的に記録する。
先輩看護師の一言
「財布を盗まれた」という患者さんの言葉は、私たちには妄想に聞こえますが、患者さんにとっては唯一無二の真実です。この世界を否定することは、患者さんが唯一頼りにしている「自分の感覚」さえも否定することです。「一緒に探しましょう」という言葉は、「私はあなたの味方ですよ」という最強のメッセージです。知識として覚えるだけでなく、現場では笑顔と優しいトーンを必ず添えてくださいね。
- 物盗られ妄想 — 認知症の中核症状である記憶障害を背景に、「物を盗られた」と強く思い込む症状。本人にとっては現実であり、否定すると興奮を招く。
- バリデーション — 認知症ケアにおけるコミュニケーション技法。患者の言動の裏にある感情や欲求を汲み取り、共感し、その正当性を認めること。
- 行動・心理症状 — 認知症に伴う、知覚、思考内容、気分、または行動の障害。例として、不安、抑うつ、妄想、幻覚、徘徊、暴言・暴力などがある。
- 近時記憶障害 — アルツハイマー型認知症の初期からみられる症状で、新しい出来事を覚えられなくなる障害。数分前のことも思い出せない。
- 非薬物的介入 (Non-pharmacological Intervention) — 薬物を用いずに、環境調整、行動療法、回想法、バリデーションなどを行うことで、患者の不安やBPSDを軽減させる介入法。
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