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高齢者に特有な症候・疾患・障害と看護
問題

75歳男性。前立腺肥大症の既往あり。最近、尿の出が悪く、排尿後にいつまでも尿が滴る感じが続いている。腹部を触診すると、恥骨上に膨隆した膀胱を触知する。この患者に最も疑われる尿失禁のタイプはどれか。

解説
溢流性尿失禁は、前立腺肥大症などによる膀胱出口部閉塞や、糖尿病性神経障害などによる排尿筋収縮力低下により、膀胱に尿が過剰に貯留し(慢性尿閉)、膀胱内圧が限界に達した時に少量の尿が漏れ出る状態である。本症例では前立腺肥大症の既往があり、排尿困難と恥骨上に膨隆した膀胱(尿閉の徴候)を認めることから、溢流性尿失禁が最も疑われる。
同じテーマの次の問題80歳女性。脳梗塞の既往があり、左片麻痺と軽度の認知症がある。トイレまで歩行可能だが、尿意を感じてからトイレに間に合わずに尿が漏れることが週に3回程度ある。この患者の尿失禁のタイプ…

詳細解説

核心解説 この問題は、尿失禁 (Urinary Incontinence) の分類とその病態生理を理解しているかを問うています。特に、混同注意! 前立腺肥大症 (Benign Prostatic Hyperplasia, BPH) による 慢性尿閉 (Chronic Urinary Retention) に伴う尿失禁のタイプを正しく見極めることが重要です。 正解の根拠 (Answer Rationale) 本症例のポイントは、「前立腺肥大症の既往」「排尿困難」「恥骨上に膨隆した膀胱(触知可能な尿閉)」の3つです。前立腺肥大症により膀胱出口部が閉塞され、尿が完全に排出できずに膀胱内に過剰に貯留します。これが慢性尿閉の状態です。膀胱内圧が上昇し限界に達すると、少量の尿が尿道口から漏れ出します。これが 溢流性尿失禁 (Overflow Incontinence) です。つまり、最重要! 「尿閉の結果として起こる尿失禁」という病態を理解することが鍵となります。 誤答の分析 (Distractor Analysis)混同注意! 切迫性尿失禁 (Urge Incontinence):膀胱が過活動(過活動膀胱)になり、急激な尿意(尿意切迫感)を我慢できずに漏れてしまう状態です。脳血管障害後などにみられ、尿閉とは逆の病態です。 ② 機能性尿失禁 (Functional Incontinence):認知症や身体障害により、トイレに行く動作が間に合わずに失禁する状態です。尿路の器質的問題ではなく、動作・認知機能の問題です。 ③ 反射性尿失禁 (Reflex Incontinence):脊髄損傷などで膀胱の神経反射が障害され、尿意を感じずに反射的に排尿してしまう状態です。 ⑤ 腹圧性尿失禁 (Stress Incontinence):咳やくしゃみ、笑うなど、腹圧がかかった瞬間に尿が漏れる状態です。骨盤底筋の弛緩が原因で、出産経験のある女性に多くみられます。 関連概念の整理 (Related Concepts) - 鑑別ポイント! 尿閉(排尿困難)が原因か、過活動膀胱(尿意切迫感)が原因か。この2つの病態を軸に、尿失禁のタイプを分類すると整理しやすいです。 - 溢流性尿失禁では、腹部の膨隆(触診で確認)に加え、超音波検査で残尿量測定(残尿量が多い:100mL以上が異常)が診断に用いられます。
概念整理 尿失禁のタイプと原因病態の関係は以下の通りです。
タイプ原因病態特徴
溢流性慢性尿閉 (BPHなど)尿閉→膀胱内圧上昇→少量漏出。腹部膨隆を伴う。
切迫性過活動膀胱 (OAB)急激な尿意切迫感。我慢できない。
腹圧性骨盤底筋弛緩腹圧上昇時(咳・くしゃみ)に漏れる。
機能性認知・身体機能低下トイレ動作が間に合わない。
反射性神経障害(脊髄損傷)尿意なしに反射的に排尿。

一目で比較!
病態溢流性尿失禁切迫性尿失禁
原因慢性尿閉(排尿筋収縮力低下 or 膀胱出口部閉塞)過活動膀胱(排尿筋の不随意収縮)
残尿多い(100mL以上)少ない(正常範囲)
尿意感じにくい or 鈍い急激で強い切迫感
腹部所見恥骨上に膨隆した膀胱を触知特になし

看護過程ポイント - アセスメント:排尿パターン、残尿感、腹部触診(膀胱の膨隆)、超音波検査での残尿量測定、排尿日誌(排尿時間・量・失禁のタイミング)を詳細に確認します。 - 看護診断:「尿失禁(溢流性)」または「排尿困難(前立腺肥大症に関連)」が優先されます。関連因子として「膀胱出口部閉塞」を特定します。 - 計画・介入:尿道カテーテル留置(間欠導尿または持続留置)による尿閉の解除が治療の第一選択となります。皮膚トラブル(湿潤・発赤)予防のため、パッドやおむつの適切な使用と陰部ケアが重要です。 - 評価:導尿後の尿量、腹部膨隆の改善、失禁の頻度減少を評価します。
暗記のコツ 「溢流(あふれる)」という名前そのものが病態を表しています。「水槽(膀胱)に水(尿)が溜まりすぎて、あふれ出る」イメージです。前立腺肥大症というキーワードを見たら「溢流性尿失禁」をまず思い浮かべましょう。
国試頻出ポイント - 「尿失禁のタイプ」は毎年必出のテーマです。特に「前立腺肥大症」とセットで「溢流性尿失禁」が頻出。 - 状況設定問題では、「高齢男性の排尿困難+腹部膨隆」という情報から溢流性尿失禁を疑い、適切な看護介入(導尿の準備など)を選ぶ問題が出題されます。 - 誤答として「切迫性尿失禁」と「腹圧性尿失禁」がよく設定されます。
出題パターン注意! 単純知識問題(「溢流性尿失禁の原因は?」)から、事例問題に発展します。「75歳男性。前立腺肥大症。夜間頻尿と残尿感あり。腹部膨隆あり。排尿後に失禁を認める。この患者への優先的な看護介入は?」→「間欠導尿の実施」や「膀胱内の残尿を確認するための超音波検査の準備」を選択させる形が典型的です。

臨床シナリオ

臨床実践ガイド 臨床シナリオ (Clinical Scenario) あなたは一般病棟の看護師です。75歳男性、前立腺肥大症の患者さんが「最近、尿の出が悪くて、排尿したつもりでも、しばらくしてからパンツが濡れるんだよね」と訴えています。バイタルサインは安定していますが、腹部を触診すると恥骨上に明らかな膨隆があります。患者さんは「トイレに行く回数はそんなに変わらないけど、一度に出る量が減った気がする」とも話しています。膀胱超音波で残尿量を測定したところ、250mLの残尿を認めました。 看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment) 1. 観察:バイタルサイン(特に発熱の有無、尿路感染のリスク評価)、排尿日誌の依頼(排尿時間・量・失禁のタイミング)、腹部触診による膀胱の膨隆度、皮膚の状態(陰部の湿潤・発赤の有無)を確認します。 2. アセスメント:前立腺肥大症による膀胱出口部閉塞が原因の慢性尿閉(溢流性尿失禁)と判断します。尿閉が長期化すると、膀胱機能の低下や腎後性腎不全、尿路感染症のリスクが高まります。 3. 報告(SBAR): - S(状況):「75歳男性、前立腺肥大症の患者さん。排尿困難と腹部膨隆があります。」 - B(背景):「残尿量250mL、溢流性尿失禁の症状があります。」 - A(アセスメント):「慢性尿閉による溢流性尿失禁とアセスメントしています。導尿による尿閉解除が必要と考えます。」 - R(提案):「尿道カテーテル留置または間欠導尿の指示をいただけますか?」 4. 介入: - 最重要! 医師の指示に基づき、尿道カテーテルを留置し、尿閉を解除します。留置後は、尿量・性状・色を観察します。 - 皮膚ケア:陰部の清潔保持、保湿剤の塗布、パッドのこまめな交換を指導します。 - 患者教育:溢流性尿失禁のメカニズムを簡潔に説明し、導尿の必要性を理解してもらいます。 5. 評価:導尿後の膀胱の膨隆が改善したか、排尿状態(自力排尿可能か)を確認します。残尿量の推移を評価します。 患者安全・注意事項 (Patient Safety & Precautions) - 感染対策:尿道カテーテル留置に伴う尿路感染症(Catheter-Associated Urinary Tract Infection, CAUTI)を予防するため、清潔操作と閉鎖式ドレナージの維持を徹底します。 - 急変対応:無尿や腰痛、発熱、血尿が出現した場合は、急性腎後性腎不全や尿路感染症の悪化を疑い、直ちに医師に報告します。 - 注意! 高齢者では、尿閉による膀胱の過伸展が長期間続くと、排尿筋の不可逆的な障害(低活動膀胱)を来す可能性があります。早期発見・早期介入が極めて重要です。
看護プロトコル - 観察項目:バイタルサイン、排尿日誌、残尿量(超音波 or 導尿)、腹部所見、皮膚状態 - 報告基準(SBAR):上記シナリオ参照 - 記録のポイント:排尿パターン、失禁の頻度と量、腹部膨隆の程度、導尿の有無と導尿量、皮膚の状態 - 家族への説明:「前立腺肥大症で尿がうまく出せず、膀胱に溜まってあふれ出ている状態です。治療として、カテーテルという細い管を入れて尿を出す必要があります。感染予防のため、清潔に保つことが大切です。」
先輩看護師の一言 「『尿失禁=おむつが必要な高齢者』と思っていませんか? この問題のように、失禁の原因が『尿閉』(おしっこが溜まりすぎてあふれている)というケースも少なくありません。患者さんが『排尿後に濡れる』と訴えたら、まずは『膀胱が張っていないか? 残尿はないか?』をアセスメントする習慣をつけましょう。原因を取り除けば、症状は改善します。国試の勉強でも、単に『溢流性』と覚えるだけでなく、『なぜあふれるのか』という病態を理解することが、現場で患者さんを助ける力になります!」

重要概念

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