核心解説
この問題は、
脊髄損傷 (Spinal Cord Injury) による
対麻痺 (Paraplegia) 患者の、
車椅子移乗 (Wheelchair Transfer) における安全指導を問うています。患者は下肢の運動機能を失っていますが、上肢機能は保たれており、日常生活動作 (ADL) の自立に向けてリハビリテーションを行っています。看護師は、
転倒・転落リスク (Fall Risk) を最大限に低減するための具体的な移乗技術を指導する必要があります。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): 対麻痺患者の移乗の基本原則は、
最重要! 残存機能である上肢の筋力 (Upper Extremity Strength) を最大限活用し、かつ
安全な環境設定 を行うことです。特に、
車椅子のブレーキ操作 (Wheelchair Brake Operation) は、移乗中に車椅子が動いてバランスを崩し転倒するリスクを防ぐための基本中の基本です。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! 移乗前に車椅子のブレーキを必ずかけることは、安全な移乗のための絶対条件です。ブレーキがかかっていないと、患者が車椅子に体重をかけた瞬間に車椅子が後方や側方に動き、転倒事故に直結します。これは全ての移乗動作において優先される安全対策です。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
-
混同注意! ①番「スライディングボードは使用しない」:これは誤りです。
スライディングボード (Sliding Board) は、臀部を滑らせて移乗するための補助具であり、対麻痺患者の移乗において重要な用具です。特に、介助者が少ない状況や患者自身で移乗する際に安全でスムーズな移動を可能にします。
- ②番「上肢の筋力は使用しない」:誤りです。対麻痺患者は下肢を使えないため、
上肢と体幹の筋力 (Upper Extremity and Trunk Strength) を駆使して移乗動作を行います。例えば、ベッド上で体を起こしたり、スライディングボード上で体を引きずるように移動させる際に不可欠です。
- ③番「車椅子をベッドに対して平行に配置する」:誤りです。安全な移乗のためには、車椅子をベッドに対して
45度程度の角度 (Approximately 45-degree angle) で配置するのが基本です。平行に配置すると、患者は腰を深くひねる動作が必要になり、バランスを崩しやすく危険です。45度の角度であれば、ベッドと車椅子の距離が近く、回転動作が最小限で済みます。
- ④番「移乗中は呼吸を止めて腹圧をかける」:誤りです。これは
危険! バルサルバ法 (Valsalva Maneuver) と呼ばれる動作であり、心拍出量や血圧に急激な変動を引き起こす可能性があります。
脊髄損傷患者 (Spinal Cord Injury Patient) は特に
自律神経過反射 (Autonomic Dysreflexia) を起こしやすいため、呼吸を止めて力を入れるような動作は避けるべきです。移乗中は、声を出しながら(例えば「いち、に、さん」)自然に呼吸をするよう指導します。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts): 脊髄損傷患者のリハビリテーションでは、移乗技術以外にも、
褥瘡予防 (Pressure Injury Prevention)、
車椅子駆動 (Wheelchair Propulsion)、
排泄ケア (Bowel and Bladder Management) などが重要な学習項目です。特に、移乗時の安全確保は転倒・転落予防の観点から国家試験でも頻出です。
概念整理:
対麻痺患者の車椅子移乗の3原則
1.
安全確保: 車椅子ブレーキ、フットレストの跳ね上げ、ベッドの高さ調整(車椅子よりやや高めに)
2.
上肢筋力活用: プッシュアップ動作、スライディングボードの使用
3.
効率的な配置: 車椅子はベッドに対して45度、ベッドと車椅子の距離は拳1つ分程度
一目で比較!:
移乗の際の車椅子の配置角度
| 角度 | 特徴 | 適応 |
| 平行 (0度) | 体幹の大きなひねりが必要で不安定 | ❌ 基本的に避ける |
| 45度 | 最も安定し、最小限の回転で移乗可能 | ✅ 対麻痺患者の標準 |
| 90度 | 前方への移動距離が長くなり負担大 | ❌ 推奨されない |
看護過程ポイント:
アセスメント: 患者の上肢筋力、体幹バランス、理解力、疲労度。
看護診断:
転倒リスク状態 (Risk for Falls)、
身体可動性障害 (Impaired Physical Mobility)。
計画・実施: 移乗技術の指導、環境調整(手すり、マット設置)、段階的な自立支援(見守り→軽介助→自立)。
評価: 患者が安全に移乗動作を実施できているか、転倒事故なく実施できているか。
暗記のコツ: 「
車椅子移乗のゴロ合わせ」
「
ブレーキ(安全第一)」「
スライディングボード(滑らせて)」「
上肢で支え(筋力活用)」「
よんじゅうごど(45度)」「
息は止めずに(バルサルバ法回避)」 → 「
ブス上よ息」と覚えましょう!
国試頻出ポイント: このテーマは、
基礎看護学 および
成人看護学(整形・脳神経) の領域で、
移乗・移動の介助技術 と
脊髄損傷患者の看護 の複合問題として頻出です。「安全」と「患者の残存機能の活用」の両面から正しい選択肢を選べるようにしておきましょう。
出題パターン注意!: 単純な「ブレーキをかける」という知識問題だけでなく、事例問題で「対麻痺のAさん(70歳男性)がベッドから車椅子へ移乗する場面で、最も適切な介助方法はどれか」といった形で出題されます。選択肢に「スライディングボードは使わず抱え上げる」「移乗前に車椅子のフットレストを外す」など、一見正しそうだが誤った内容が含まれていることが多いので注意しましょう。