核心解説
この問題は、動脈血ガス分析 (Arterial Blood Gas, ABG) の検体採取・取り扱い手順に関する基本的かつ実践的な知識を問うものです。動脈血は静脈血と異なり、血圧が高く凝固しにくいため、採血後の止血管理が非常に重要です。
1.
核心概念の分析 (Key Concept):
動脈血ガス分析 (ABG) は、酸素分圧 (PaO2)、二酸化炭素分圧 (PaCO2)、pH などを測定し、呼吸機能や酸塩基平衡の評価に用いられます。採血は通常、患者の状態が安定している時に行うことが望ましいですが、特に呼吸状態が不安定な患者でこそ、治療方針決定のために緊急で行われることもあります。
動脈穿刺 (Arterial Puncture) であるため、静脈採血よりも出血や血腫形成のリスクが高く、厳重な圧迫止血が必須です。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale): 正解は④「採血後は穿刺部位を5分間以上圧迫止血する」です。
動脈血は血流が速く、凝固因子も豊富ですが、穿刺針の穴から血液が漏れ出し、皮下血腫(Hematoma)を形成するリスクがあります。特に、抗凝固療法(ワルファリン、DOACsなど)を受けている患者や、血小板減少症の患者では止血に時間がかかるため、
最重要! 5分間以上、時には10分以上強く圧迫する必要があります。また、圧迫は穿刺部そのものとそのやや中枢側を同時に圧迫することで、効果的に止血できます。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
①
混同注意! 採血は患者の呼吸が安定した状態で行うのが理想ですが、呼吸不全の評価や治療効果判定には、不安定な状態でのデータも重要です。むしろ、患者の呼吸状態や活動状態を記録し、それに基づいて結果を解釈することが大切です。
② 注射器の内腔は、血液凝固を防ぐために
ヘパリン (Heparin) で洗浄する必要があります。通常は乾燥ヘパリン加注射器を使用します。
③ 採血部位は、一般的に
橈骨動脈 (Radial Artery) が第一選択です。大腿動脈 (Femoral Artery) も使用可能ですが、穿刺後の止血が難しく、血腫形成や仮性動脈瘤のリスクが高いため、原則的には避けられます。
混同注意! 大腿静脈との誤穿刺も危険です。
⑤ 検体は
氷温(Ice Slush)で保存 しますが、
2時間以内に測定するのは遅すぎます。血球が酸素を消費し続けるため、ガス分圧が変化します。採血後は
最重要! 15分以内(できれば即時)に測定する必要があります。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts): ABGと併せて、パルスオキシメーター(SpO2)の原理と限界、およびアレンテスト(Allen Test: 橈骨動脈と尺骨動脈の側副血行路の評価)の手順と意義を押さえておきましょう。特に、ABG採取前にアレンテストを実施し、手の血流が確保されていることを確認することが重要です。
概念整理:
動脈血ガス分析 (ABG) は動脈穿刺による侵襲的検査であり、
血液凝固・止血のメカニズム と
検体の安定性 の理解が必須。採血後の圧迫止血時間と、検体の保存方法・測定時間の厳守が看護師の重要な役割。
一目で比較!:
| 項目 | 動脈血ガス分析 (ABG) | 静脈血採血 (Venipuncture) |
|---|
| 対象血管 | 橈骨動脈・大腿動脈・上腕動脈 | 静脈(肘正中皮静脈など) |
| 止血時間 | 5分以上(強圧迫) | 1~2分(軽圧迫) |
| 検体の取り扱い | ヘパリン加・空気遮断・氷冷・即時測定 | 抗凝固剤は検査項目による・室温保存可能 |
| 主な合併症 | 血腫・動脈血栓症・仮性動脈瘤・神経損傷 | 血腫・静脈炎・神経損傷 |
看護過程ポイント:
アセスメント: 患者の呼吸状態(SpO2, 呼吸数, 意識レベル)と、抗凝固薬内服の有無を確認。採血前にアレンテストを実施。
看護診断: 「出血リスク状態」や「末梢組織灌流低下リスク状態」が関連。
計画・実施: 採血後は穿刺部位を5分以上(抗凝固薬内服中は10分以上)強く圧迫し、その後も出血や血腫の有無を観察。検体は空気に触れさせず、氷冷し、すぐに検査室へ搬送。
評価: 穿刺部位の止血確認と血腫形成の有無。ABG結果に基づく患者状態の評価。
暗記のコツ: 「
動脈は5分以上、静脈は1~2分」と覚えましょう。また、「
ABGの検体は、氷で冷やしてすぐ(15分以内)に測る」とリズムで覚えると便利です。「ヘパリン」は血液凝固を防ぐために必須という点もセットで。
国試頻出ポイント: ABGの基準値や酸塩基平衡の解釈に加え、
採血手技や検体取り扱いに関する問題は毎年必ずと言っていいほど出題されます。特に「採血後の圧迫時間」と「測定時間の制限」は数値で問われることが多いので、正確に覚えましょう。
出題パターン注意!: 単純な知識問題だけでなく、「COPD増悪で入院中の患者」や「人工呼吸器管理中」の事例問題で、「ABGを採取する際の看護師の対応で正しいのはどれか」という形で出題されることがあります。その際、単に手順を問うだけでなく、患者の状態(抗凝固薬の有無など)を読み解く必要がある問題も増えています。