核心解説
この問題は、
同種造血幹細胞移植 (Allogeneic Hematopoietic Stem Cell Transplantation) 後の合併症を問うています。特に、
生着 (Engraftment) が確認された後に出現した
発熱、紅斑性皮疹、下痢、肝機能障害 という4つの症状が、診断の決め手となります。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): 同種移植では、ドナー由来の免疫担当細胞(特にTリンパ球)が、レシピエントの体内で新たな免疫系を構築します。このドナー由来の免疫細胞が、レシピエントの正常組織を「異物(自己ではないもの)」と認識して攻撃する病態が
移植片対宿主病 (Graft-versus-Host Disease, GVHD) です。急性GVHDは、移植後約20~100日(生着後早期)に発生し、主な標的臓器は「皮膚」「肝臓」「消化管」の3つです。本症例の症状は、これら3臓器すべてに及んでおり、極めて典型的な急性GVHDの臨床像です。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! 正解は⑤
移植片対宿主病 (GVHD) です。ドナー由来のリンパ球がレシピエントの臓器を攻撃することで、①皮膚:紅斑性皮疹(手掌・足底に出現しやすい)、②消化管:分泌性下痢(大量の水様性下痢)、③肝臓:肝機能障害(ビリルビン上昇、AST/ALT上昇)が特徴的に現れます。これらの症状はほぼ同時期に出現することが多く、発熱も炎症反応に伴います。GVHDは、同種移植における主要な合併症であり、重症化すると生命を脅かすため、早期診断と免疫抑制療法の開始が極めて重要です。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
混同注意! ①
薬剤性肝障害 (Drug-Induced Liver Injury): 肝機能障害のみに焦点を当てた選択肢です。皮疹や下痢を説明できず、GVHDのように多臓器にわたる症状を呈することは稀です。
②
サイトメガロウイルス感染症 (Cytomegalovirus Infection): CMV感染症も移植後によく見られる合併症ですが、主に発熱、肺炎、網膜炎、消化管潰瘍(下痢)を起こします。紅斑性皮疹を特徴とすることは稀であり、肝機能障害も軽度の場合が多いです。GVHDと合併することもあります。
③
肝静脈閉塞症 (Veno-occlusive Disease, VOD): 移植後早期(生着前、約0~21日)に発症する、肝類洞内皮細胞障害による病態です。主症状は、体重増加(体液貯留)、肝腫大・圧痛、黄疸(高ビリルビン血症)であり、皮疹や下痢は伴いません。
混同注意! VODは肝臓に限局した病態で、本症例のような皮膚・消化管症状は説明できません。
④
血栓性微小血管障害 (Thrombotic Microangiopathy, TMA): 主に血小板減少、微小血管障害性溶血性貧血(破砕赤血球の出現)、腎機能障害、神経症状を特徴とします。肝機能障害や皮疹、下痢は典型的ではありません。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts): GVHDは「急性GVHD」と「慢性GVHD」に大別されます。急性GVHDは移植後100日以内に発生し、皮膚・肝臓・消化管が標的です。慢性GVHDは100日以降に発生し、皮膚硬化(強皮症様)、シェーグレン症候群様症状(口腔内乾燥、眼乾燥)、閉塞性細気管支炎など、全身の臓器に及びます。治療はステロイドパルス療法や免疫抑制剤(タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル)の増量が主体です。予防策として、移植前からの免疫抑制剤投与と、T細胞除去(T-cell depletion)などが行われます。
概念整理:
移植片対宿主病 (GVHD) は、ドナー由来のリンパ球(特にT細胞)がレシピエントの組織を攻撃する病態です。標的臓器は「皮膚・肝臓・消化管」の3つで、この全てに症状が出現する場合、GVHDを強く疑います。生着後に発生することを覚えておきましょう。
一目で比較!: 移植後合併症の鑑別ポイント
| 病態 | 発症時期 | 標的臓器/症状 |
| GVHD | 生着後 (約20-100日) | 皮膚(皮疹)、消化管(下痢)、肝臓(肝機能障害) |
| VOD | 移植後早期 (0-21日) | 肝臓(体重増加、肝腫大、黄疸) |
| TMA | 移植後 (様々) | 腎臓(腎機能障害)、血液(血小板減少、貧血) |
| CMV感染 | 移植後 (様々) | 肺(肺炎)、網膜(網膜炎)、消化管(潰瘍) |
看護過程ポイント: アセスメントでは、皮膚の観察(特に手掌・足底の紅斑の有無)、下痢の性状・量・頻度の記録、肝機能検査値(AST、ALT、T-Bil)の推移を毎日確認します。看護診断としては「
感染リスク状態」「
皮膚統合性障害のリスク状態」「
下痢」「
体液量不足リスク状態」が優先されます。
暗記のコツ: 「GVHDの3つの標的臓器」=「皮・肝・腸」と覚えましょう。ドナー(移植片)がレシピエント(宿主)を攻撃する「移植片対宿主病」という名称そのものが病態を表しています。
国試頻出ポイント: 本問のように、複数の症状から「どの合併症か」を問う問題は頻出です。特にGVHDとVODの鑑別は必須です。VODは肝臓のみ、GVHDは3臓器という違いを押さえましょう。
出題パターン注意!: 「生着が確認された後」という時間経過が非常に重要です。VODは生着前、GVHDは生着後に発症する点を問題文で見極めることが正答の鍵になります。