核心解説
この問題は、職業性疾病(Occupational Disease)のうち、特定の職業(農業)に従事する者に発生しやすい疾患を問うています。農業従事者は、殺虫剤や除草剤などの
農薬(Agricultural Chemicals / Pesticides)を取り扱う機会が多く、
皮膚や気道からの吸収により農薬中毒を起こすリスクが高いことが知られています。代表的なものとして、有機リン系農薬による
コリンエステラーゼ阻害が挙げられ、これは
神経毒性を引き起こし、唾液分泌過多、縮瞳、筋線維束攣縮、意識障害などの症状を呈します。農薬中毒は農業従事者の職業性疾病として最も頻度が高く、予防には適切な防護服の着用と散布後の手洗い・うがいが不可欠です。
正解の根拠(Answer Rationale)
最重要! 農業従事者は日常的に農薬に曝露する環境にあるため、
農薬中毒(Pesticide Poisoning)が職業性疾病として最も発生しやすいです。特に夏季の高温多湿環境下では、皮膚からの吸収が促進されるため、中毒リスクがさらに高まります。
誤答の分析(Distractor Analysis)
混同注意!
①番の
じん肺(Pneumoconiosis)は、鉱山労働者や炭鉱労働者など、粉じん(鉱物性粉じん)を長期間吸入する職業で発生します。農業従事者は粉じん曝露量が少なく、じん肺のリスクは低いです。
②番の
電離放射線障害(Ionizing Radiation Disorder)は、放射線業務従事者(病院の放射線技師、原子力発電所作業員など)に発生します。農業では放射線を取り扱う機会はほぼありません。
③番の
アスベスト肺(Asbestosis)は、アスベスト(石綿)を扱う建設業・解体業・造船業などの労働者に発生します。農業従事者はアスベスト曝露機会が通常ありません。
④番の
振動障害(Vibration-Induced Disorder / Hand-Arm Vibration Syndrome)は、チェーンソーや削岩機などの振動工具を長時間使用する林業従事者や建設作業員に発生します。農業では耕うん機などの使用で生じる可能性はあるものの、農薬中毒に比べ発生頻度は低く、職業性疾病としての代表例ではありません。
関連概念の整理(Related Concepts)
職業性疾病は、業務に起因して生じる疾患であり、業務上疾病として労働者災害補償保険法で定められています。農業従事者では、農薬中毒の他に、
熱中症(Heat Stroke)、
感染症(Zoonosis)、
腰痛(Low Back Pain)なども発生しやすいです。農薬中毒の中でも有機リン系農薬とカーバメート系農薬は、コリンエステラーゼを阻害するため、血液中の
コリンエステラーゼ(ChE)活性低下が診断の指標となります。
概念整理: 職業性疾病の特徴を職業ごとに整理しましょう。農業→農薬中毒、鉱山・炭鉱→じん肺、建設・解体→アスベスト肺、林業→振動障害、医療・原子力→電離放射線障害、という関連を覚えておきましょう。
一目で比較!:
| 職業 | 主な職業性疾病 |
| 農業 | 農薬中毒、熱中症、腰痛 |
| 鉱山・炭鉱 | じん肺(珪肺・炭肺) |
| 建設・解体 | アスベスト肺、騒音性難聴 |
| 林業 | 振動障害 |
| 医療・原子力 | 電離放射線障害 |
看護過程ポイント: 農業従事者の健康診断では、農薬の使用状況、防護具の着用状況、症状(頭痛、めまい、吐き気、視力障害など)の聴取が重要です。農薬中毒が疑われた場合、
バイタルサイン(特に呼吸状態と意識レベル)の観察と、直ちに汚染された衣服を脱がせ、皮膚を流水で洗浄する対応が必要です。
暗記のコツ: 「農業=農薬中毒」は直感的ですが、他の職業性疾病と混同しないように、「粉じんは鉱山」「アスベストは建設」「振動は林業」「放射線は医療」と、
職業名と物質名をペアでイメージすると覚えやすいです。
国試頻出ポイント: 職業性疾病の問題では、「○○従事者に多い疾患はどれか」という形で、職業と疾患の組み合わせが頻出します。また、農薬中毒の症状や治療(
アトロピンや
プラリドキシム(PAM)の投与)も併せて問われることが多いです。
出題パターン注意!: 「農業従事者が夏季に頭痛と吐き気を訴え来院。農薬散布後の手洗い不足が判明。看護師の初期対応として正しいのはどれか」のような状況設定問題に発展しやすいです。単に疾患名を覚えるだけでなく、臨床対応の優先順位(気道確保・除染・医師への報告)を考えられるようにしましょう。