核心解説
この問題は、
終末期 (Terminal Stage) の患者に生じる
せん妄 (Delirium) に対する看護介入の優先順位と適切性を問うています。
混同注意! せん妄は、せん妄(急性脳症候群)と認知症(慢性進行性)ではアプローチが根本的に異なります。せん妄の核心は、
原因となる身体疾患・薬剤・環境要因の特定と修正、および
非薬物療法を第一選択とした環境調整と支持的コミュニケーション です。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): 終末期のせん妄は、全身状態の悪化、多臓器不全、薬剤の蓄積(特にオピオイド・抗コリン薬)、代謝異常、痛み・便秘・尿閉などの身体的苦痛、環境変化、心理的ストレスなど、複数の要因が複合して発生します。特に
睡眠・覚醒リズムの障害 と
見当識障害 (Disorientation) が顕著であり、患者は現実と幻覚・妄想の区別がつかず、強い不安や恐怖、興奮を示します。看護師は、まず原因となる可逆的要因(例:便秘、疼痛、低酸素血症)をアセスメントし、それを取り除く努力を最優先します。非薬物療法が効果不十分な場合にのみ、薬物療法(抗精神病薬)が考慮されます。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale): 選択肢④「見当識障害を改善するため、日付や時間を繰り返し伝える」が適切です。
最重要! せん妄の非薬物療法の基本は、
環境調整による見当識の再確立と安心感の提供 です。具体的には、
時計やカレンダーを患者の目につく場所に置く、日中はカーテンを開けて光を入れる、スタッフが自己紹介をして「今日は〇月〇日、〇曜日です」と繰り返し伝える、患者の名前を呼びかける などが有効です。これは、患者の現実認識を支え、混乱と不安を軽減するための最も基本的で安全な介入です。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
混同注意!
| 選択肢 | 誤答理由 |
| ① 夜間の睡眠を確保するため、日中は覚醒させない | 誤り。 せん妄では睡眠・覚醒リズムの乱れが生じています。日中の覚醒と活動を促し、夜間の睡眠を誘導することが、リズムを正常化させる基本です。「日中覚醒させない」はかえって夜間の不眠を悪化させ、せん妄を増悪させます。 |
| ② 刺激を減らすため、個室に移し、家族の面会を制限する | 誤り。 過剰な刺激(騒音、頻回なケア)はせん妄の誘因となりますが、完全な隔離や家族の面会制限は 感覚遮断 を招き、かえって不安と見当識障害を悪化させます。個室移室は慎重に判断し、家族の面会は見当識を支える重要な資源です。「面会制限」よりも、面会時間を調整したり、静かな環境を整えたりする方が適切です。 |
| ③ 興奮が強い場合は、すぐに抗精神病薬を筋肉注射する | 誤り。 興奮が強く、患者やスタッフの安全が脅かされる場合、または非薬物療法が無効な場合に薬物療法は検討されますが、「すぐに」筋注を行うのは第一選択ではありません。まずは 非薬物療法(環境調整、声かけ、鎮静) を十分に試みます。また、終末期患者では抗精神病薬の副作用(QT延長、傾眠、錐体外路症状)に注意が必要で、経口投与や舌下投与が優先されることもあります。 |
| ⑤ 点滴ルートや尿道カテーテルは、事故抜去防止のために固定を強化する | 誤り。 固定強化は患者の身体拘束に近づき、興奮や抵抗を増強させる可能性があります。事故抜去のリスクアセスメントを行い、必要最小限のライン類の管理、穿刺部位の観察、場合によっては抜去後の対応(再挿入のリスク評価)を優先します。固定強化ではなく、ラインの不要なものを減らす、テープの固定方法を工夫する などの対応が基本です。 |
4.
関連概念の整理 (Related Concepts): せん妄と認知症の鑑別(せん妄は急性発症、症状の日内変動、意識レベルの変動が特徴)、ICUせん妄、終末期せん妄の原因(多臓器不全、電解質異常、薬剤)、非薬物療法のエビデンス、抗精神病薬(ハロペリドール、クエチアピン)の適応と副作用を併せて理解しておきましょう。
概念整理: せん妄は「急性・変動性の意識障害」であり、治療の基本は原因検索と環境調整(非薬物療法)。薬物療法は非薬物療法が無効で興奮が強い場合に限定される。
一目で比較!:
| せん妄 (Delirium) | 認知症 (Dementia) |
| 急性発症、日内変動あり | 慢性進行性、変動は少ない |
| 意識レベルが変動(傾眠〜興奮) | 意識は清明(初期) |
| 原因治療+環境調整が第一選択 | 進行抑制と症状管理が中心 |
| 可逆性がある(原因除去で改善) | 基本的に非可逆性 |
看護過程ポイント:
-
アセスメント: 発症の急性度、意識レベル(JCS/GCS)、睡眠覚醒リズム、原因(疼痛・便秘・低酸素・薬剤・感染・電解質異常)の評価、CAM(Confusion Assessment Method)の活用。
-
看護診断: 急性混乱 (Acute Confusion) / 転倒リスク (Risk for Falls) / 不安 (Anxiety)。
-
計画・実施: 環境調整(見当識支援、照明調整)、コミュニケーション(簡潔な指示、優しい声かけ)、身体拘束回避、安全確保(ベッド柵、転倒予防)。
-
評価: 意識レベルの改善、興奮の軽減、夜間睡眠の確保、患者の安心感。
暗記のコツ: 「せん妄のキーワードは『急性・変動・可逆』。『原因検索と環境調整』がセット。薬は最後の手段。」
国試頻出ポイント: せん妄の特徴(急性発症、日内変動、見当識障害)、非薬物療法(環境調整、声かけ、見当識刺激)、薬物療法の適応(興奮が強く非薬物療法が無効な場合)。
出題パターン注意!: 事例問題(「夜間に急に興奮し、見当識障害が出現した患者への対応」など)で、非薬物療法と薬物療法の優先順位を問う問題が頻出。身体拘束の適否もセットで問われる。