核心解説
この問題は、病理組織診断 (Histopathological Diagnosis) における組織検体の前処理、特に
固定 (Fixation) に用いる薬剤の基本知識を問うています。固定の目的は、採取した組織の自己融解 (Autolysis) や腐敗を防ぎ、細胞や組織の構造を生体内に近い状態で保存することです。これにより、正確な病理診断が可能になります。
正解の根拠 (Answer Rationale):
ホルマリン (Formalin)、特に
10%中性緩衝ホルマリン液 (10% Neutral Buffered Formalin) は、病理組織検査における標準的な固定液です。ホルマリンはホルムアルデヒド (Formaldehyde) の水溶液で、タンパク質を架橋 (Cross-linking) することで組織を硬化・固定し、細胞構造を長期間安定に保ちます。
最重要! ほとんどの日常的な病理診断において、ホルマリン固定が第一選択となります。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
-
混同注意! ①番の
グルタルアルデヒド (Glutaraldehyde) も強力な固定液ですが、電子顕微鏡 (Electron Microscopy) 用の組織固定に主に使用されます。ホルマリンよりも組織への浸透が遅いため、通常の光学顕微鏡検査には不向きです。
- ②番の
エタノール (Ethanol) は、細胞診 (Cytology) の検体(例:子宮頸部擦過細胞、喀痰)の固定に使用されることがありますが、組織の構造保存には適さず、病理組織診断の第一選択ではありません。
- ④番の
生理食塩水 (Saline) は生体に等張な液体ですが、固定能は全くなく、組織の自己融解を防げません。生検組織を生理食塩水に入れたまま放置すると、診断不能になります。
禁忌行為 です。
- ⑤番の
ヘパリン (Heparin) は抗凝固薬 (Anticoagulant) であり、血液検査用の採血管に使用されます。組織の固定には全く使用しません。
関連概念の整理 (Related Concepts):
- 固定液の選択:免疫組織化学染色 (Immunohistochemistry, IHC) や遺伝子検査を行う場合は、特殊な固定液(例:PLP液)や、凍結切片用の
OCTコンパウンド (OCT Compound) が用いられることもあります。
- 検体取り扱いの基本:採取した組織は、適切な固定液に浸し、ラベルを正確に貼付して病理検査室へ提出します。ホルマリンは発癌性が疑われるため、取り扱い時の換気が重要です。
概念整理: 病理組織診断の基本工程は、「採取 → 固定 (Fixation) → 包埋 (Embedding) → 薄切 (Sectioning) → 染色 (Staining) → 鏡検 (Microscopy)」です。この最初の「固定」を適切に行わなければ、その後の工程が全て無意味になります。固定の目的は「組織を生きたままの状態で止める」ことです。
一目で比較!:
| 薬剤 | 主な用途 | 病理組織固定での使用 |
|---|
| ホルマリン | 病理組織固定 | 第一選択(標準) |
| グルタルアルデヒド | 電子顕微鏡用固定 | 特殊用途 |
| エタノール | 細胞診固定・消毒 | 組織固定には不適 |
| 生理食塩水 | 生体への補液 | 固定能なし |
| ヘパリン | 抗凝固 | 使用しない |
看護過程ポイント: 看護師の役割は、医師の処置(生検)の介助と検体の適切な取り扱いです。組織が入った容器に、患者情報と部位を記入し、すぐに固定液に浸すことが重要です。固定が不十分だと「診断不可 (Inadequate for Diagnosis)」となり、患者への侵襲的な再検査が必要になります。
暗記のコツ: 「病理組織=ホルマリン(Formalin)」とセットで覚えましょう。「ホルマリンは組織を固めて保存する(Fix)」、対して「生理食塩水は保存できない(Fixできない)」と対比すると記憶に残りやすいです。
国試頻出ポイント: この問題は、検体採取時の基本知識として頻出です。固定液の種類と目的を問う問題に加え、「ホルマリン固定後は水洗不要」などの取り扱い上の注意点も出題されやすいです。
出題パターン注意!: 「胃癌の術中迅速病理診断のために提出する検体の固定法は?」という応用問題に発展することがあります。術中迅速診断では、固定せずに
凍結切片 (Frozen Section) で診断するため、ホルマリン固定は行わないという点に注意が必要です。