看護学のコア解説
この問題は、
敗血症性ショック (Septic shock)の患者において、
肺動脈カテーテル (Pulmonary artery catheter, PAC)を用いた循環動態モニタリングの解釈と、
心機能悪化 (Worsening cardiac function)の最も特異的な指標を見極める能力を問うています。
重要概念の分析 (Key Concept)
敗血症性ショックは、感染に対する全身性炎症反応により、血管拡張と血管透過性亢進が起こり、
有効循環血液量 (Effective circulating volume)の減少と、それに続く組織灌流不全を引き起こします。初期には心拍出量は代償性に増加(高心拍出状態)することが多いですが、病態が進行すると炎症性メディエーターの直接的な心筋抑制作用により、
敗血症性心筋症 (Septic cardiomyopathy)を発症し、心機能が低下することがあります。肺動脈カテーテルは、
心拍出量 (Cardiac output, CO)、
肺動脈楔入圧 (Pulmonary artery wedge pressure, PAWP)、
中心静脈圧 (Central venous pressure, CVP)、
全身血管抵抗 (Systemic vascular resistance, SVR)などを測定し、患者の循環動態を詳細に評価するためのツールです。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は④「
肺動脈楔入圧 (PAWP) が 22 mm Hg」です。
ここがポイント! PAWPは、バルーンで肺動脈を一時的に閉塞させて測定する圧力であり、
左心房圧 (Left atrial pressure)を間接的に反映します。正常値は
6〜12 mmHgです。PAWPが上昇するということは、左心房に血液がうっ滞している、つまり
左心室 (Left ventricle)の機能が低下し、血液を十分に駆出できずに前負荷(心室拡張末期容積)が増加している状態を示します。敗血症性ショックの経過中にPAWPが
22 mmHgまで上昇していることは、敗血症性心筋症による
左心不全 (Left-sided heart failure)が進行し、
肺うっ血 (Pulmonary congestion)や
肺水腫 (Pulmonary edema)のリスクが高まっていることを強く示唆する所見です。これは「心機能の悪化」を直接的に示す、最も特異的な指標と言えます。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
① 全身血管抵抗 (SVR) が 1,000 dynes/sec/cm⁵:
混同注意! 敗血症性ショックの典型的な血行動態は「高心拍出・低抵抗」です。SVRの正常値は800〜1200 dynes/sec/cm⁵程度ですが、敗血症では血管拡張により
低下することが特徴です。この値は正常〜やや高値であり、敗血症性ショックの典型的な所見とは異なります。むしろ、心原性ショックや低循環血液量性ショックで見られる所見です。
② 心拍出量 (CO) が 4.5 L/min:成人の正常な心拍出量は約4〜8 L/minです。この値は正常範囲内にあります。敗血症初期にはCOは増加することも多く、単独のCO値では心機能の良し悪しは判断できません。心機能は「どれだけの前負荷(PAWP)に対して、どれだけの血液を送り出せているか(CO)」という関係(Starling曲線)で評価する必要があります。
③ 中心静脈圧 (CVP) が 4 mm Hg:CVPは
右心房圧 (Right atrial pressure)を反映し、
右心系 (Right heart)の前負荷の指標です。正常値は
2〜6 mmHgです。この値は正常範囲内であり、
左心系 (Left heart)の機能を直接評価することはできません。敗血症では血管内容量不足によりCVPが低値になることが多いですが、輸液負荷後や右心機能不全時には上昇します。
関連概念の整理 (Related Concepts)
敗血症性ショックの管理では、初期の積極的輸液療法が重要ですが、過剰な輸液はPAWPを上昇させ、心機能が低下している患者では肺水腫を誘発するリスクがあります。肺動脈カテーテルのデータは、輸液の適応や量を決定する上で極めて重要な情報を提供します。また、心機能を支持するために
カテコラミン (Catecholamine)(例:ドパミン、ノルアドレナリン)や
イノトロープ (Inotrope)(例:ドブタミン)を使用する際の指標にもなります。
概念のまとめ
| 用語 | 意味と正常値 | 看護上の意義 |
|---|
| 肺動脈楔入圧 (PAWP) | 左心房圧を間接反映。正常 6-12 mmHg。 | 左心機能と肺うっ血のリスクを評価。上昇は左心不全を示唆。 |
| 心拍出量 (CO) | 1分間に心臓が送り出す血液量。正常 4-8 L/min。 | 全身への血液供給能力。ただし前負荷や後負荷の影響を受ける。 |
| 中心静脈圧 (CVP) | 右心房圧を反映。正常 2-6 mmHg。 | 右心系の前負荷と血管内血液量の大まかな指標。 |
| 全身血管抵抗 (SVR) | 末梢血管の抵抗。正常 800-1200 dynes/sec/cm⁵。 | 血管の収縮・拡張状態。敗血症では低下が典型的。 |
一目で比較!
| ショックの種類 | 心拍出量 (CO) | 全身血管抵抗 (SVR) | 肺動脈楔入圧 (PAWP) |
|---|
| 低循環血液量性 | 低下 | 上昇(代償性) | 低下 |
| 心原性 | 低下 | 上昇(代償性) | 上昇 |
| 敗血症性 (分布性) | 初期:上昇 / 末期:低下 | 著明な低下 | 正常〜低下 / 心不全合併時:上昇 |
| 神経原性 | 様々 | 低下 | 様々 |
解剖生理と薬理のポイント
肺動脈カテーテル (Swan-Ganzカテーテル)は、右頸静脈や鎖骨下静脈から挿入し、右心房→右心室→肺動脈を経て、先端を肺動脈まで進めます。PAWP測定時には先端バルーンを膨らませて肺動脈枝を一時的に閉塞し、「カテーテル先端-閉塞部-肺毛細血管-肺静脈-左心房」という連続した水柱の圧力を測定します。これが左心房圧に等しくなる原理です。薬理的には、PAWPが高い場合、ループ利尿薬(フロセミド)による前負荷軽減や、ドブタミンなどのイノトロープによる心収縮力増強が考慮されます。
暗記のコツとゴロ合わせ
- PAWPは「左心の窓」:肺動脈「楔」入圧で、左心(左心房)の圧力を「窓」からのぞくイメージ。
- CVPとPAWPの関係:CVPは「右」、PAWPは「左」の前負荷。心臓は右と左でポンプが別々なので、評価も分けて考える。
- ショックの血行動態:「心原性はPAWPが高い」「敗血症はSVRが低い」とシンプルに覚える。
国試頻出ポイント
肺動脈カテーテルの各測定値の意味と、代表的なショック(心原性、敗血症性、低循環血液量性)における変化のパターンは超頻出です。特に「PAWPの上昇=左心不全・肺うっ血のリスク」という関連性は、看護ケア(体位、輸液管理、観察項目)を問う問題に直結します。
国試出題パターンの変化に注意!
単に「PAWPが高いのはどれか」と問うだけでなく、「PAWPが22mmHgの患者に対して、看護師が優先的に実施すべき観察はどれか?」(呼吸状態、泡沫状痰の有無、SpO2など)や、「このデータから予測される合併症はどれか?」(急性肺水腫など)という形で、データ解釈から臨床推論、看護実践へと発展させた出題が増えています。