看護学のコア解説
この問題は、外傷患者に対する
一次評価 (Primary assessment)における優先順位を問うています。緊急時には、患者の状態を迅速に評価し、直ちに生命を脅かす問題から対処することが鉄則です。そのための世界的に標準化されたアプローチが
ABCDEアプローチ (ABCDE approach)です。
重要概念の分析 (Key Concept)
ここがポイント! 一次評価の目的は、「治療を必要とする最も緊急度の高い問題を、系統的に見逃さずに発見すること」です。ABCDEアプローチは、その評価順序を明確に示しています。
1.
A (Airway: 気道): 気道の開通性を確認。閉塞があれば、ただちに確保する。
2.
B (Breathing: 呼吸): 呼吸の有無、回数、深さ、左右差を評価。酸素投与や補助換気が必要か判断。
3.
C (Circulation: 循環): 脈拍、皮膚の色・温・湿潤度、出血の有無を評価。大量出血のコントロールと輸液が優先。
4.
D (Disability: 障害): 意識レベル(
グラスゴー・コーマ・スケール (Glasgow Coma Scale: GCS)など)、瞳孔反応を簡潔に評価。
5.
E (Exposure/Environment: 全身観察/環境): 衣服を脱がせて全身を観察し(低体温に注意)、環境を整える。
この順序は、上流(気道・呼吸)の問題が解決されなければ、下流(循環・意識)への酸素供給が不可能になるという生理学的原理に基づいています。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は④「気道の開通性と呼吸の適切さを確立する」です。高速度の自動車事故では、頭部・頸部外傷による気道閉塞や、胸部外傷による
緊張性気胸 (Tension pneumothorax)など、気道(A)と呼吸(B)に関わる致死的合併症が即座に発生する可能性があります。患者が「不安で落ち着かない」という所見は、低酸素血症の初期症状である可能性もあり、AとBの評価が最優先であることを示唆しています。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 他の選択肢も重要な評価項目ですが、優先順位が異なります。
① 神経学的所見と瞳孔反応の確認:これは「D (Disability)」に該当します。気道・呼吸・循環が安定して初めて、正確な神経学的評価が可能になります。
② 内出血と腹部損傷の評価:これは「C (Circulation)」の一部であり、特に腹部臓器損傷による出血は重要ですが、気道と呼吸の確保が先です。
③ 四肢の骨折や脱臼の評価:これは「E (Exposure)」の段階で行う詳細な二次評価(Secondary survey)の項目です。生命に直結しない評価は後回しにします。
関連概念の整理 (Related Concepts)
・
二次評価 (Secondary survey): 一次評価(ABCDE)で生命の危機が回避された後、頭のてっぺんから足の先まで系統的に詳細な身体評価を行い、すべての損傷を特定するプロセス。バイタルサインの詳細なモニタリング、病歴聴取、全身の観察と触診を含みます。
・外傷の一次救命処置 (Trauma Primary Survey): 上記のABCDEアプローチに加え、頸椎保護(脊髄損傷予防)を常に念頭に置くことが必須です。
概念のまとめ
・一次評価のゴール:直ちに生命を脅かす問題を発見し、治療すること。
・評価の順序:ABCDEアプローチ(気道→呼吸→循環→意識→全身観察)。
・「不安・落ち着きのなさ」は低酸素の初期サインの可能性あり。
一目で比較!
| 評価フェーズ | 目的 | 主な評価項目 | 順序 |
|---|
| 一次評価 (Primary Survey) | 生命を直ちに脅かす問題の発見と対応 | ABCDE(気道、呼吸、循環、意識、全身) | 最優先 |
| 二次評価 (Secondary Survey) | すべての損傷の系統的な同定 | 詳細な身体診察、病歴、バイタルサインの継続的モニタリング | 一次評価の後 |
解剖生理と薬理のポイント
・気道閉塞や呼吸不全は、数分で不可逆的な脳障害や心停止を引き起こします。一方、四肢の骨折は(大量出血を除き)短時間で致命的になることは稀です。これがAとBを最優先する生理学的根拠です。
・頸椎保護:外傷患者では、頭頸部外傷による脊髄損傷 (Spinal cord injury)のリスクが高いため、気道確保を含むすべての処置において、頸部を中間位に固定・保護することが必須です。
暗記のコツとゴロ合わせ
ABCDEの順番は、「あ(A)せて(B)血(C)がで(D)え(E)~!」(焦らせて血が出るえ~!)と覚えると忘れにくいです。A(気道)とB(呼吸)が最初であることを強く印象付けます。
国試頻出ポイント
ABCDEアプローチの順序と、各段階で何を評価・対応するかは、超頻出です。外傷患者に限らず、急変時や救急患者のアセスメント全般で応用されます。「まず何をするか?」という優先順位決定問題の定番です。
国試出題パターンの変化に注意!
単純に「ABCDEの順番は?」と問う問題から、「具体的な臨床シナリオ(本問のような交通事故、転落、心肺停止)が提示され、看護師が最初に取るべき行動はどれか?」という応用問題が主流です。シナリオ中のキーワード(例:意識レベル低下、チアノーゼ、大量出血)から、どの段階(A, B, C...)の問題が最も緊急かを判断できるように練習しましょう。