看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
あなたは救急外来の看護師です。COPDの既往がある70歳男性が、自宅で転倒後、急激な右側胸痛と呼吸困難を訴えて搬送されてきました。到着時、意識は清明ですが著明な苦悶様顔貌、発汗があり、SpO2は88%(room air)、血圧90/60 mmHg、脈拍120回/分、呼吸数32回/分です。右胸部の呼吸音はほとんど聴取できず、左胸部に比べて膨隆しているように見えます。頸静脈が怒張しています。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
一次評価 (Primary Survey) - ABCの確認: 気道は開通しているが、呼吸困難と低酸素血症(Bの問題)、血圧低下と頻脈(Cの問題)を認める。
2.
緊急対応: 医師に緊急連絡すると同時に、
ここがポイント! 施設のプロトコルに従い、
針穿刺減圧キットを準備・あるいは実施する。第2肋間鎖骨中線を消毒し、太い針(14-16G)を肋骨上縁に沿って穿刺する。「シュー」という空気の排出音とともに患者の呼吸状態が急速に改善することを期待する。
3.
二次評価と継続ケア: 減圧後もバイタルサインを頻回にモニタリング。酸素投与を開始(COPD患者のため、最初は低流量から開始し、反応を見ながら調整)。胸腔ドレーン挿入の準備を進める。疼痛のアセスメントと緩和。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
- 針穿刺はあくまで一時的な救命処置です。穿刺後も胸腔内にカテーテルが留置されている状態では、気胸が再発するリスクがあるため、確定的治療(胸腔ドレーン)までの継続的な観察が必須です。
- 穿刺部位は感染のリスクがあるため、無菌操作を厳守します。
- COPD患者への酸素投与は、原則としてCO2ナルコーシスを防ぐため調整が必要ですが、ここがポイント! このような生命の危機にある状況では、まず低酸素血症を是正することが優先されます。投与後は意識レベルや動脈血液ガス分析 (ABG) の結果を注意深く観察します。
看護処置と与薬フロー
針穿刺減圧の手順(看護師の役割)
1. 医師の指示を確認、または緊急プロトコルに基づき実施を判断。
2.
準備物: 消毒薬、太目(14-16G)の静脈留置針または専用キット、ガーゼ、テープ。
3.
手順: 患者に説明(可能な場合)。座位または仰臥位で、
第2肋間・鎖骨中線を同定。肋骨の上縁を目標に、垂直に穿刺。空気の排出を確認したら、カテーテルを進め、針を抜去。カテーテルをテープで固定。
4.
観察: バイタルサイン、呼吸状態、穿刺部位からの空気漏れや出血の有無を継続的に観察。
先輩看護師からの一言
「緊張性気胸は、看護師の迅速な判断と行動が文字通り患者さんの命を救う、数少ないシチュエーションの一つです。『何かおかしい』と感じたら、ためらわずに一次評価(ABC)を行い、特徴的な所見(片側呼吸音消失、頸静脈怒張、血圧低下)を探してください。知識と技術を備えていれば、パニックになることなく、冷静かつ確実に救命処置にあたることができます。国試でこの問題が出たら、迷わず『針穿刺減圧』を選びましょう!」