看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
4歳の男児が、健康診断で「お腹が大きい」と指摘され小児科を受診。超音波検査で右腎臓に大きな腫瘍が発見され、ウィルムス腫瘍が強く疑われ入院となりました。病棟に到着した時点で、看護師として最初に何をすべきでしょうか?
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
安全確保の最優先介入:まず、患児のベッドサイドおよび病室の目立つ場所に「腹部触診厳禁」「転倒・衝突に注意」などのサインを掲示します。この情報は、申し送りやカンファレンスで必ず全スタッフと共有します。
2.
環境調整と活動制限:ベッド柵は常に上げ、転落防止に努めます。遊びは静かなものに制限し、走り回ったり、腹部を打つ可能性のある遊具(三輪車など)は避けます。移動時は抱きかかえるか、車椅子を使用し、腹部を圧迫しないように注意します。
3.
家族への教育と支援:腫瘍がなぜ触ってはいけないのか、破裂のリスクについて、わかりやすい言葉で両親に説明します。抱き方やおむつ交換の際の注意点を実演しながら指導します。同時に、突然の診断に動揺している家族の心理的サポートを開始します。
4.
アセスメント:触診は行いませんが、視診で腹部の膨隆の程度、皮膚色の変化を観察します。バイタルサイン(特に血圧、脈拍)を定期的に測定し、腹痛や不機嫌さなどの症状に注意を払います。疼痛がある場合は、医師に報告し、鎮痛薬の使用を検討します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
- 絶対禁忌:腹部の深部触診、強い圧迫。
- 検査時の注意:超音波検査やCT検査の際も、技師に腫瘍の存在と取り扱いの注意を必ず伝えます。患児が動かないように優しく固定します。
- 術前の観察:腫瘍が急激に大きくなったり、腹痛が強くなったり、顔色が悪くなるなどの症状は、腫瘍内出血や破裂の前兆の可能性があるため、直ちに医師に報告します。
看護処置と与薬フロー
ウィルムス腫瘍患児の受け入れから検査までのフロー
1. 病棟到着 → 2. ベッドサイドに警告サイン設置(最優先) → 3. 安静・環境調整の説明(家族・患児へ) → 4. バイタルサイン測定・視診による観察 → 5. 検査のための準備(医師の指示に従い、必要に応じた絶食や腸管準備など)→ 6. 検査への移送(腹部保護を徹底)
先輩看護師からの一言
「ウィルムス腫瘍の看護で一番大切なのは、『触らない、圧迫しない』という鉄則を、チーム全体で徹底することです。たった一度の不用意な触診が、治療の見通しを大きく変えてしまう可能性があります。看護師は、患児と最も長い時間を過ごす存在として、この『守り』の役割の重大さを自覚し、家族や他職種への啓発役としても積極的に動きましょう。国試ではこの『最優先事項』がストレートに問われますが、臨床ではその理由を深く理解しているからこそ、確実に実行できるのです。」