看護学のコア解説
この問題は、
発育性股関節形成不全 (Developmental Dysplasia of the Hip: DDH)の乳児における重要な
身体評価 (Physical assessment)の所見について問うています。DDHは、股関節が不安定で、寛骨臼(受け皿)に対して大腿骨頭(ボール)が正しい位置に収まっていない状態を指します。早期発見が予後を大きく左右するため、看護師はスクリーニングのための正確な観察と評価スキルが求められます。
重要概念の分析 (Key Concept)
乳児期のDDH評価では、
視診 (Inspection)と
触診 (Palpation)による特定の徴候を探します。最も重要な視診所見の一つが「
ここがポイント!大腿・殿部の皮膚皺襞の非対称性」です。これは、脱臼している側の脚が短縮しているため、太ももやお尻のシワの数や深さ、位置が左右で異なって見える現象です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
選択肢②の「大腿・殿部の皮膚皺襞の非対称性」は、DDHの古典的かつ重要な徴候です。股関節が脱臼していると、その側の大腿骨が上方に移動するため、脚の長さに差(脚長差)が生じます。この脚長差が、皮膚のシワの非対称として視覚的に観察できるのです。これは、生後3ヶ月以降の乳児で特に有用な所見です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 他の選択肢は、DDHの評価とは直接関係のない、神経学的発達の評価項目です。
- ① バビンスキー反射 (Babinski reflex):乳児期には足底を刺激すると母趾が背屈し他の趾が扇状に開く(陽性)のが正常です。2歳頃までに消失します。神経系の成熟度を評価するもので、DDHとは無関係です。
- ③ モロー反射 (Moro reflex):大きな音や落下感に対して両腕を広げて抱きつくような動きをする原始反射です。生後4-6ヶ月頃に消失します。その「消失」は神経学的異常の可能性を示唆しますが、DDHの特異的な所見ではありません。
- ④ 下肢の筋緊張亢進:これは脳性麻痺 (Cerebral palsy)などの上位運動ニューロン障害を示唆する所見であり、DDHでは通常、筋緊張に異常は見られません。
関連概念の整理 (Related Concepts)
DDHの評価には、皮膚皺襞の非対称以外にも以下の重要な検査があります。
- オルトラーニ徴候 (Ortolani sign):股関節を外転・屈曲させた状態で、大腿骨頭が寛骨臼に「カクン」とはまる感覚(整復音)を確認します。生後2-3ヶ月までの乳児で有効です。
- バーロー徴候 (Barlow sign):股関節に内転・後方圧を加えて脱臼させる(不安定性を確認する)誘発テストです。オルトラーニ徴候とセットで評価されます。
- 歩行開始後の児では、跛行 (Limp)や動揺性歩行 (Waddling gait)が認められます。
概念のまとめ
発育性股関節形成不全 (DDH) の乳児期スクリーニング:視診では「皮膚皺襞の非対称」、触診では「オルトラーニ・バーローテスト」が基本。神経学的反射(バビンスキー、モロー)とは評価の目的が異なる。
一目で比較!
| 評価所見 | DDHとの関連 | 評価の目的/他の疾患 |
|---|
| 皮膚皺襞の非対称 | 強く関連 (古典的所見) | 脚長差の視覚的指標 |
| オルトラーニ/バーロー徴候 | 強く関連 (診断的検査) | 股関節の不安定性・脱臼の確認 |
| バビンスキー反射陽性 | 無関係 | 神経系の成熟度・皮質脊髄路の評価 |
| モロー反射消失 | 無関係 | 神経学的障害(脳損傷など)の可能性 |
解剖生理と薬理のポイント
股関節は「寛骨臼(臼蓋)」と「大腿骨頭」からなる球関節です。DDHでは、臼蓋が浅い、関節包が緩い、大腿骨頭が正しい位置にないなどの問題が生じ、不安定になります。女児、骨盤位分娩、家族歴があるとリスクが高まります。治療は、早期であれば
パヴリックハーネス (Pavlik harness)などの装具による保存的治療が第一選択です。
暗記のコツとゴロ合わせ
DDHの3大身体的所見は「シワ、音、開き」で覚えましょう!
- シワ:皮膚皺襞の非対称
- 音(クリック):オルトラーニ徴候での整復音
- 開き:股関節の外転制限(開排制限)
国試頻出ポイント
DDHは小児看護の頻出テーマです。「乳児健診で何を観察するか」「保護者への指導内容(おむつの当て方、抱き方)」などがよく問われます。特に「生後3〜4ヶ月健診での観察ポイント」として皮膚皺襞の非対称性は必須知識です。
国試出題パターンの変化に注意!
単に「DDHの所見は?」と問うパターンから、「オルトラーニ徴候を確認するための適切な児の体位は?」「パヴリックハーネス装着児のスキンケア指導で優先すべきことは?」など、
評価技術や看護ケアの実践的知識を問う問題が増えています。病態を理解した上で、具体的な看護介入につなげる思考が求められます。