看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
あなたは呼吸器内科病棟の看護師です。70歳の男性、長年の喫煙歴がありCOPDと診断されているAさん。普段は在宅酸素療法(1 L/min)を受けていますが、風邪をひいてから息苦しさが増し、本日はSpO₂が92%から88%に低下したため受診、入院となりました。医師の指示でABGを採取したところ、上記の結果(pH 7.32, PaCO₂ 58, HCO₃⁻ 30, PaO₂ 65)でした。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
即時アセスメント(優先):Aさんのベッドサイドへ行き、声をかけながら
視診 (Inspection) と
聴診 (Auscultation) を行います。
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呼吸状態:呼吸数(30回/分以上ではないか)、呼吸の深さ(浅くないか)、リズム(整か)。
呼吸補助筋の使用(首の筋肉が緊張して浮き出ていないか、肩で息をしていないか)、
奇異呼吸 (Paradoxical breathing)(胸と腹の動きが逆になる)がないかを確認します。
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聴診:
喘鳴 (Wheezing) や
副雑音 (Adventitious sounds) の有無、左右差を確認します。
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患者の訴え:「今、どのくらい苦しいですか?」「話すのは苦しいですか?」と尋ね、
呼吸困難の程度 (Degree of dyspnea) を評価します。
2.
酸素療法の調整とモニタリング:医師の指示に基づき、酸素流量を調整します(通常、COPD急性増悪時でも、目標SpO₂は88-92%を維持するよう低流量から開始)。酸素投与開始後は、
呼吸数、努力性、意識レベルを特に注意深く観察します(CO₂ナルコーシスの予防・早期発見のため)。
3.
二次的アセスメント:呼吸状態が落ち着いたら、意識レベル(JCSやGCS)、バイタルサイン(血圧、心拍数)、皮膚の色・温冷感、チアノーゼの有無などを評価します。
4.
安楽な体位の提供:
ファウラー位 (Fowler's position) や
起坐位 (Sitting position) など、呼吸が楽になる体位を援助します。必要に応じて
リラクゼーション法 (Relaxation techniques) や
口すぼめ呼吸 (Pursed-lip breathing) を指導します。
5.
医師への報告と記録:ABG結果と臨床所見をまとめ、速やかに医師に報告します。観察内容は客観的・具体的に記録します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
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ここがポイント! 酸素は薬剤であるという認識を持ちましょう。COPD患者への安易な高濃度酸素投与は危険です。
* ネブライザー治療(気管支拡張剤など)を行う場合は、治療前後の呼吸状態の変化を評価します。
* 患者の不安は呼吸困難を増悪させます。落ち着いた態度で説明を行い、安心感を与えるコミュニケーションが重要です。
看護処置と与薬フロー
| ステップ | 看護ケアの具体例 | 注意点 |
|---|
| 1. アセスメント | 呼吸数・深さ・努力性、SpO₂、意識レベル、患者訴え | 数値だけでなく「様子」を観察。呼吸補助筋使用は危険信号。 |
| 2. 酸素投与 | 医師指示に基づき鼻カニューレorマスクで低流量酸素を開始。目標SpO₂ 88-92% | 流量は必ず医師指示通りに。 自己判断で上げない。開始後15-30分でABG再検や臨床評価。 |
| 3. 薬剤投与 | 気管支拡張剤の吸入(例:SABA)、ステロイドの全身投与 | 吸入指導(ゆっくり深く吸い、10秒息止め)。全身性ステロイドの副作用(高血糖、不眠など)にも注意。 |
| 4. モニタリング | 呼吸状態、意識レベル、バイタルサインを定期的(例:1時間毎)に評価・記録 | 変化があれば直ちに医師報告。特に意識レベルの低下は緊急事態。 |
| 5. 安楽確保 | 起坐位、クッション使用、口すぼめ呼吸・腹式呼吸の指導 | 患者が最も楽だと感じる体位を探る。エネルギー消費を抑える。 |
先輩看護師からの一言
「COPD患者さんの呼吸状態は、『数字(ABG, SpO₂)』と『患者さんの様子』の両方を合わせて見ることが命です。ABGの紙の上の数字が悪くても、患者さんが穏やかに会話できているなら、緊急性は少し低いかもしれません。逆に、数字がそれほど悪くなくても、『息ができない!』と恐怖に目を見開き、首の筋肉がガチガチに緊張している患者さんは、すぐにでも呼吸不全に陥る可能性があります。看護師の目と耳、そして患者さんとの対話が、最も優れたアラームシステムなのです。国試でも、常に『患者中心』で考え、目の前の人の苦痛を最も早く緩和できる行動は何か、を問うてみてください。その視点が、正解への最短ルートですよ!」