看護学のコア解説
この問題は、
看護業務の適切な委譲 (Delegation)と
職種別の業務範囲 (Scope of Practice)について問うています。特に、
ここがポイント! 患者の状態の重大性と、必要な看護判断のレベルに応じて、どの業務を誰に委譲できるかを判断することが、
看護管理者 (Charge nurse)や現場の看護師に求められる重要な能力です。
重要概念の分析 (Key Concept)
看護業務の委譲は、単なる作業の割り振りではなく、「患者の安全」と「職種の法的・教育的範囲」に基づいて行われるべきです。米国の看護体制をモデルにしたこの問題では、
登録看護師 (Registered Nurse, RN)、
准看護師 (Licensed Practical Nurse, LPN)、
無資格補助員 (Unlicensed Assistive Personnel, UAP)の役割の違いを理解する必要があります。RNは看護過程全体(アセスメント、診断、計画、実施、評価)を担当し、特に初回アセスメントや状態変化の判断など、高度な臨床判断を要する業務はRNの責務です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は③「胸痛を訴える新入院患者の初期アセスメントを経験豊富なUAPに委譲する」です。その理由は明確です。
混同注意! 胸痛 (Chest pain)は、
急性冠症候群 (Acute coronary syndrome)や
大動脈解離 (Aortic dissection)など、生命に関わる緊急事態の可能性を示す重要な症状です。このような不安定な状態にある患者の「初期アセスメント」には、病歴聴取、身体所見の観察、緊急性の判断など、高度な臨床推論と看護判断が不可欠であり、これはUAPの業務範囲を完全に超えています。UAPに委譲することは患者の安全を著しく脅かすため、
看護管理者 (Charge nurse)が直ちに介入して是正する必要があります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
① 安定した術後患者のバイタルサイン測定を経験豊富なUAPに委譲する:バイタルサイン測定は、標準化された技術であり、状態が安定している患者については、UAPの典型的な業務範囲内です。異常値を発見した場合は直ちにRNに報告するという前提があります。
② 安定した慢性疾患患者の薬剤投与をLPNに割り当てる:多くの施設では、経口薬や一部の皮下注射など、特定の薬剤投与は、教育を受けたLPNの業務範囲内です。患者の状態が「安定している」という点が重要です。
④ 適切な訓練を受けたLPNに慢性創傷のドレッシング交換を割り当てる:創傷処置は、状態が安定した慢性創傷(褥瘡など)であれば、プロトコールに沿って実施可能な技術であり、訓練を受けたLPNに委譲できる業務です。感染徴候などの変化はRNに報告する必要があります。
関連概念の整理 (Related Concepts)
「委譲の5つの権利 (Five Rights of Delegation)」というフレームワークがあります:1) 適切な業務 (Right Task)、2) 適切な状況 (Right Circumstance)、3) 適切な人物 (Right Person)、4) 適切な指示・伝達 (Right Direction/Communication)、5) 適切な監督・評価 (Right Supervision/Evaluation)。今回の問題は、特に「適切な業務」と「適切な状況」に焦点を当てています。
概念のまとめ
| 職種 | 主な役割と業務範囲 | 委譲できる業務の例(状況による) | 委譲できない業務の例 |
|---|
| 登録看護師 (RN) | 看護過程の全段階。初回/継続アセスメント、看護診断、計画立案、複雑な技術、患者教育、投薬(静脈内など含む)。 | 業務を他職種に委譲し、監督・評価する。 | 基本的に全ての業務が責任範囲。但し、他職種に委譲可能な業務は委譲する。 |
| 准看護師 (LPN/LVN) | RNの監督下で、安定した患者のルーティンケア。経口・皮下・筋肉内注射の投与、単純な創傷処置、データ収集。 | 安定患者のバイタル、投薬(施設の規定による)、慢性的な創傷処置。 | 初回アセスメント、看護診断、静脈内投与(施設による)、状態不安定な患者の評価。 |
| 無資格補助員 (UAP) | 非看護的、日常的な患者ケア。直接的な監督下で活動。 | バイタル測定、ADL介助(清拭、食事介助)、ベッドメイキング、患者の移送。 | あらゆる種類のアセスメント、投薬、創傷処置、患者教育、判断を要する業務。 |
一目で比較!
| 業務内容 | UAPに委譲可能か | LPNに委譲可能か | 判断の根拠 |
|---|
| 安定患者の体温測定 | 可能 (Yes) | 可能 (Yes) | 標準化された技術。異常時は報告が必要。 |
| 新規・胸痛患者のアセスメント | 不可 (No) | 通常不可 (No) | 高度な臨床判断と緊急性の評価が必要。RNのコア業務。 |
| 安定した糖尿病患者へのインスリン注射(皮下) | 不可 (No) | 可能 (Yes) *訓練後 | 投薬はLPNの範囲内(施設による)。UAPは絶対に不可。 |
| 慢性褥瘡のドレッシング交換 | 不可 (No) | 可能 (Yes) *訓練後 | プロトコールに沿った技術。創傷の評価はRNが行う。 |
解剖生理と薬理のポイント
この問題自体は解剖生理や薬理を直接問うものではありませんが、背景にあるのは「胸痛」という症状の重篤性です。胸痛を来す病態(心筋虚血、大動脈解離、肺塞栓など)は、迅速なアセスメントと介入を必要とします。UAPがこの初期評価を行うことは、心電図の読解や聴診所見の解釈ができないため、致命的な遅れを生む可能性があります。
暗記のコツとゴロ合わせ
委譲判断の原則「アセスメントはRNの仕事!」
「
あぶない(緊急・不安定な)患者の、
あさい(初回)アセスメントは、RN!」と覚えましょう。患者状態が「安定」しているか「不安定」かが、委譲可否の大きな分かれ目です。
国試頻出ポイント
日本の看護師国家試験でも、「業務の範囲」や「他職種連携」は頻出テーマです。特に「看護師の業務」「准看護師の業務」「看護補助者(ヘルパー)の業務」の違い、および「診療の補助」に含まれる行為・含まれない行為の区別が問われます。静脈内注射、初回面接・アセスメント、看護計画の立案は、原則として看護師(RNに相当)の業務です。
国試出題パターンの変化に注意!
「どの業務を誰に委譲できるか」を直接問うパターンの他に、
「看護師が行うべき優先度の高い行為はどれか」という形で出題されることがあります。その場合も、アセスメントや状態悪化が疑われる患者への対応は、常に最優先の看護業務であることを思い出してください。