看護学のコア解説
この問題は、
災害看護 (Disaster nursing)における
STARTトリアージ (Simple Triage and Rapid Treatment)システムの適用について問うています。STARTは、限られた医療資源を最大限に活用し、最も助かる可能性の高い患者に優先的に治療を提供するための迅速な選別法です。
重要概念の分析 (Key Concept)
STARTトリアージでは、
ここがポイント! 患者を以下の4つのカテゴリーに分類します。その判断は、
歩行能力 (Ambulation)、
呼吸 (Respiration)、
循環 (Circulation)、
意識レベル (Mental status)の4つのシンプルな評価基準に基づいて、30秒以内に行われます。
1.
赤タグ (Immediate / RED):直ちに救命処置が必要。生命の危険が切迫しているが、治療により救命可能な患者。
2.
黄タグ (Delayed / YELLOW):治療を遅らせても生命に危険が及ばない、重篤ではない患者。
3.
緑タグ (Minimal / GREEN):軽傷で、歩行可能な患者。
4.
黒タグ (Expectant / BLACK):死亡、または現状の資源では救命が不可能な重篤な患者。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解の選択肢4(35歳女性)は、STARTのアルゴリズムに従うと
赤タグ (RED)に分類されます。その判断根拠は以下の通りです。
1.
歩行能力:意識はあるが「歩行困難」と記載されており、最初の「歩けるか?」のスクリーニングで「NO」と判断されます。
2.
呼吸:次に呼吸を評価します。呼吸数が
35回/分(正常は12-20回/分)と著明な頻呼吸であり、「呼吸困難」を呈しています。STARTでは「呼吸がない→気道確保→それでも呼吸がない→黒タグ」「呼吸がある→次の評価」と進みます。この患者は呼吸があるので、次の評価に進みます。
3.
循環:橈骨動脈拍動(radial pulse)の評価は、
混同注意! 脈の「有無」と「充実度」ではなく、
「脈拍が2秒以内に触知できるかどうか」が基準です。この患者の心拍数は
125回/分と頻脈ですが、脈は触知できると想定されます(記載なし)。従って、循環評価はパスします。
4.
意識レベル:最後に、簡単な命令(例:「手を握って」)に従えるかを評価します。この患者は「意識がある」と記載されているため、命令に従えると判断され、
赤タグに分類されます。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 他の選択肢の分類理由を理解することが、STARTの本質をマスターする鍵です。
・
選択肢1 (45歳男性):
緑タグ (GREEN)です。STARTでは、最初に「歩けるか?」と声をかけ、歩ける患者はすべて軽症(緑タグ)として一度別の場所に集めます。この患者は「歩行可能 (ambulatory)」であり、軽い切り傷のみです。
・
選択肢2 (30歳女性):
黒タグ (BLACK)です。STARTの最初の評価は呼吸です。自発呼吸がなく、気道確保を試みても呼吸が戻らない患者は、現時点での資源では救命不可能と判断され、黒タグが付けられます。
・
選択肢3 (25歳男性):
黄タグ (YELLOW)です。歩行不能(NO)→呼吸はある(記載なしだが、意識があるのであると推測)→循環評価で「橈骨動脈拍動が2秒以内に触知できるか?」。ここで「迅速で弱い橈骨拍動 (rapid, weak radial pulse)」とありますが、
弱くても2秒以内に触知できれば循環評価はパスします。次に意識レベル評価で命令に従える(意識がある)ため、赤タグではなく黄タグに分類されます。骨折などの重傷はありますが、生命の危険は切迫していない「遅延治療」群です。
関連概念の整理 (Related Concepts)
STARTは主に成人用です。小児には
JumpSTARTトリアージ法が用いられます。また、病院内での通常の
緊急度・重症度判定 (Triage)(赤・黄・緑など)は、災害時のSTARTとは目的と基準が異なります。災害時は「最大多数に最大の効果を」という功利主義的考え方が基盤にあります。
概念のまとめ
・
赤タグ (RED / Immediate):救命可能で、直ちに処置が必要。呼吸困難、重度の出血、ショック状態など。
・
黄タグ (YELLOW / Delayed):重傷だが、治療を1-2時間遅らせても生命に危険がない。複雑骨折、重度のやけど(気道熱傷なし)など。
・
緑タグ (GREEN / Minimal):軽傷で歩行可能。切り傷、打撲など。
・
黒タグ (BLACK / Expectant):死亡または救命見込みなし。自発呼吸なし(気道確保後も)、重度の頭部外傷など。
一目で比較!
| タグ | 色 | 優先度 | START判定基準の例 |
|---|
| Immediate | 赤 | 最優先 | 歩行不能、呼吸困難(RR>30)、命令に従える |
| Delayed | 黄 | 第二優先 | 歩行不能、呼吸・循環は問題なし、命令に従える |
| Minimal | 緑 | 最後 | 歩行可能 |
| Expectant | 黒 | 治療対象外 | 自発呼吸なし(気道確保後も) |
暗記のコツとゴロ合わせ
STARTの評価順序は「
歩・呼・脈・命(あし・こみゃく・いのち)」で覚えましょう!
1.
歩けるか? → YESなら緑、NOなら次へ。
2.
呼吸はあるか? → NOなら気道確保→それでもNOなら黒、YESなら次へ。
3.
脈(循環)は2秒で触れるか? → NOなら赤(重度の出血性ショック疑い)、YESなら次へ。
4. 簡単な
命令に従えるか? → NOなら赤(重度の脳障害疑い)、YESなら黄。
国試頻出ポイント
災害看護、特にSTARTトリアージは国試で頻出です。単に色を覚えるのではなく、
「なぜその色になるのか」という判断プロセスを順を追って説明できるようにすることが重要です。歩行能力が最初のスクリーニングである点、循環評価は「脈の有無(2秒ルール)」である点がひっかけポイントとして出題されます。
国試出題パターンの変化に注意!
単純な「この患者は何色タグか?」だけでなく、「トリアージナースの最初の行動は?」(歩ける患者に声をかけて集める)、「黒タグを付ける判断基準は?」(気道確保後も自発呼吸なし)、「多数傷病者発生時の看護師の役割は?」(トリアージ、応急処置、安否情報の提供など)といった多角的な問われ方をします。常に「災害現場の状況」をイメージしながら学習しましょう。