看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
夜間、妊娠32週の経産婦が「じわじわとパッドが濡れる感じがする」と訴え来院。問診では「痛みは全くない」と強調。観察すると、パッドに鮮紅色の血液が付着している。患者は少し不安がっているが、意識は清明。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
初期アセスメントと安全確保:まず落ち着いて患者に声をかけ、すぐにストレッチャーまたは車椅子に乗せてもらい、動きを最小限にします(安静は出血量を減らすため)。同時にナースコールでチームに連絡。
2.
バイタルサインと胎児心拍の同時モニタリング:血圧、脈拍、SpO2を測定すると同時に、
ドップラーまたは分娩監視装置 (Cardiotocography, CTG)ですぐに胎児心音を確認・記録します。これが最も重要な一手です。
3.
状況の詳細把握と記録:出血が始まった時刻、量(パッドの交換回数や重量測定)、色、痛みの有無、胎動を確認します。
4.
医師への報告と準備:得られた情報(特に胎児心拍数パターンと母体バイタル)を迅速に医師に報告。静脈路確保の準備、酸素投与の準備、血液検査(血算、凝固機能、血液型交叉試験)、超音波検査の手配を進めます。
5.
患者・家族への説明と精神的支援:今行っている処置とその理由をわかりやすく説明し、不安を軽減します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
- 絶対禁忌! 内診 (Pelvic exam) は行わない。医師の指示があっても、超音波で胎盤位置が確認されるまでは、看護師として内診に協力したり、患者に内診の準備をさせたりしてはいけません。
- 子宮収縮の観察:触診で子宮の硬さや収縮の有無を定期的に確認します。板状硬になっていないか注意します。
- 出血量の客観的評価:パッドやシーツの重量測定(使用後-使用前)で出血量をグラム単位で把握します。視覚的評価は不正確です。
看護処置と与薬フロー
緊急時フロー(胎児機能不全が確認された場合)
1. 医師に緊急報告。
2. 酸素投与(マスクで6-10L/分)を開始。
3. 太い静脈路(18G以上)を2本確保。
4. 輸液(生理食塩液やリンゲル液)を開始し、循環血液量を維持。
5. 緊急帝王切開のための準備(術前説明、同意書、剃毛、導尿など)をチームで分担して迅速に行う。
先輩看護師からの一言
「産科の救急は、『母体と胎児、2人の命を同時に守る』という独特の緊張感があります。無痛性出血の患者さんを前にしたら、まず自分の呼吸を整えて。パニックにならずに、『胎児の心音は?』『母体はショック状態ではないか?』という2点に集中することが、命を救う最短ルートです。国家試験で学ぶ優先順位は、まさに臨床現場で生きる『行動の指針』なのですよ!」