核心解説
この問題は、看護の根幹をなす
世界保健機関 (WHO) の健康定義について問うています。1948年のWHO憲章前文で示されたこの定義は、現代の健康観の基礎であり、看護師国家試験でも頻出の基本知識です。
核心概念の分析 (Key Concept): この定義の革新性は、健康を「病気がないこと」という
消極的・生物医学的モデル から、「身体的(Physical)・精神的(Mental)・社会的(Social)に完全に良好な状態」という
積極的・全人的(Holistic)モデル へと転換した点にあります。単に疾病や虚弱(Infirmity)がない状態ではなく、個人が持つ可能性を最大限に発揮できる状態を目指す概念です。
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! 正解は④番です。WHO憲章では「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.」と定義されており、この日本語訳がそのまま選択肢④に該当します。「完全に良好な状態」という理想的な概念であることがポイントです。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
①「医療機関を受診する必要がなく自立した生活が可能な状態」:
混同注意! これは介護保険や障害者総合支援法の「自立した生活」の概念に近く、WHO定義の「社会的に完全に良好な状態」の一部を切り取ったに過ぎません。②「日常生活を支障なく送ることができる身体機能」:これは「身体的側面」のみに焦点を当てており、精神的・社会的側面を欠いています。③「個人が自らの健康を管理し疾病を予防できる能力」:これは健康増進やヘルスプロモーション(WHOオタワ憲章, 1986年)の概念であり、健康の定義そのものではありません。⑤「疾病や障害がなく、身体的に正常な状態」:これはまさに「単に疾病や病弱の存在しないことではない」と否定されている、旧来の消極的健康観です。
関連概念の整理 (Related Concepts):
混同注意! WHOの健康定義と混同しやすい概念として、
ヘルスプロモーション (Health Promotion)(人々が自らの健康をコントロールし改善できるようにするプロセス)、
QOL(Quality of Life)(生活の質)、
ウェルネス (Wellness)(積極的な健康増進状態)があります。看護の目的は、この全人的な健康の維持・回復を支援することです。
概念整理:
WHO健康定義(1948年)の3要素:
身体的(Physical) +
精神的(Mental) +
社会的(Social) に完全に良好な状態。疾病がないこと(Absence of disease)だけではない。理想像(Ideal state)であり、達成目標でもある。
一目で比較!:
| 概念 | 定義の焦点 | 代表的な定義 |
| WHO健康定義 (1948年) | 完全な良好状態 (Well-being) | 身体的・精神的・社会的に完全に良好 |
| ヘルスプロモーション (1986年) | 健康を高めるプロセス | 人々が自らの健康をコントロールし改善できるようにする |
| 消極的健康観 | 疾病がないこと | 病気や障害がない状態 |
看護過程ポイント: この定義は看護過程の全ての段階に影響します。
アセスメントでは、身体面だけでなく、精神面(不安やストレス、価値観)や社会面(経済状況、人間関係、役割)も包括的に評価します。看護診断では「非効果的健康維持」「非効果的健康管理」などの診断が関連し、介入目標は単に症状緩和ではなく、患者のQOL向上を目指します。
暗記のコツ: 「
身体(Physical)・精神(Mental)・社会(Social)の3つの『的』で完全良好!」と覚えましょう。または「
PMS(ピーエムエス):Physical, Mental, Social」の頭文字で記憶するのも効果的です。病気がないこと(Not merely absence of disease)は定義の一部であり、否定されている部分(not merely)を意識することが重要です。
国試頻出ポイント: この問題は、看護の基礎となる概念を問うため、必修問題(基礎看護学の冒頭)や、老年看護・在宅看護・精神看護などあらゆる分野の事例問題の背景知識として出題されます。「病気がなくても健康とは言えない」という文脈(例:末期がん患者でもスピリチュアルペインがなければ健康? → これは議論の余地がありますが、定義上は「完全に良好」には当てはまらない可能性があります)や、逆に「障害があっても健康を目指せる」というポジティブな視点も併せて理解しておきましょう。
出題パターン注意!: 「次のうち、WHOの健康定義に含まれる要素として誤っているものはどれか?」という形で、4要素(身体的・精神的・社会的・経済的)のうち「経済的(Economic)」を混ぜた選択肢が出されることがあります。経済的側面は定義に含まれません。また、近年の改定議論(「スピリチュアル(Spiritual)」の追加提案など)に関する知識も問われる可能性がありますが、現時点(2026年基準)では1948年の定義が基本です。