核心解説
この問題は、
大規模災害発生直後(超急性期)のトリアージ、特に
START式トリアージ (Simple Triage and Rapid Treatment)における
最重要!黒色タグ (Black Tag)の適応基準を問うています。限られた医療資源を最大限に活用し、一人でも多くの命を救う「
最大多数の最大幸福」という災害医療の根本原則を理解することが鍵となります。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): トリアージとは、傷病者の緊急度と重症度に基づいて治療の優先順位を決定するシステムです。大災害時の超急性期には、治療を行っても救命の可能性が極めて低い傷病者(死亡または瀕死)には黒色タグを付与し、蘇生処置などの人的・物的資源を、救命可能な傷病者(赤色・黄色タグ)へ集中的に投入します。これは
功利主義 (Utilitarianism)に基づく倫理的判断です。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale): 選択肢5の「
自発呼吸がなく、瞳孔散大している」状態は、
心肺停止 (Cardiopulmonary Arrest)であり、かつ
瞳孔散大という死戦期または不可逆的な脳機能喪失を示唆する所見を伴います。START式トリアージの第一段階(歩行評価)と第二段階(呼吸評価)において、気道確保を行っても自発呼吸がない場合は直ちに黒色タグの対象となります。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
①
混同注意! 強い疼痛を訴える状態は、バイタルサインに異常がなければ
黄色タグ (Yellow Tag)の「治療の猶予が可能な重症」に分類される可能性があります。黒色タグではありません。
② 呼吸数30回/分以上でショック徴候がある状態は、
最重要!赤色タグ (Red Tag)の「最優先治療群」に該当します。直ちに救命処置が必要であり、黒色タグの対象ではありません。
③
混同注意! 意識清明で歩行可能な軽傷者は、第一段階の評価で
緑色タグ (Green Tag)の「治療不要または軽処置群」に分類されます。
④ 四肢変形はあるが末梢循環が良好な状態は、緊急の生命危機には至っておらず、
黄色タグ (Yellow Tag)の「待機的治療群」に該当します。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts): 災害時のトリアージと、救急外来での通常のトリアージ(JTASなど)の違いを明確に理解しておきましょう。通常のトリアージは「最も緊急度の高い患者」から診療しますが、災害時トリアージは「救命不可能な患者」を後回しにする点が根本的に異なります。この倫理的葛藤と法的根拠も国試では重要です。
概念整理
| タグ色 | 分類 | 状態の特徴 | 処置の優先度 |
|---|
| 赤 (Red) | 最優先治療群 | 生命の危機が切迫し、直ちに処置を行えば救命の可能性がある | 最優先 (1番目) |
| 黄 (Yellow) | 待機的治療群 | 生命に危険があるが、短時間の治療猶予が可能 | 2番目 |
| 緑 (Green) | 軽処置群 | 軽傷で歩行可能、生命に危険はない | 3番目 (または自己対応) |
| 黒 (Black) | 死亡 / 救命困難群 | 既に死亡しているか、救命の可能性が極めて低い状態 | 最後 (処置しない) |
一目で比較!
| 分類 | 災害時トリアージ (START式) | 通常救急トリアージ (JTAS) |
|---|
| 目的 | 救命可能な最大多数を救う | 緊急度の高い個人を優先する |
| 対象 | 集団 (多数傷病者) | 個人 |
| 黒タグの扱い | 処置の対象外 | 死亡確認が優先 (トリアージ外) |
| 倫理原則 | 功利主義 (最大多数の最大幸福) | 義務論 (個人の生命尊重) |
看護過程ポイント
アセスメント: START式では「①歩行→②呼吸→③循環→④意識」の順で迅速に評価します。呼吸がない場合は気道確保を試み、それでも無呼吸なら黒色タグです。
看護診断: 災害時には個別の看護診断よりも、集団全体の緊急度を瞬時に見極める「トリアージ能力」が求められます。
実施: 黒色タグを付与した傷病者に対しても、安楽への配慮(ターミナルケアの視点)を完全に失ってはいけません。限られた資源の中で可能な倫理的配慮が問われます。
評価: 災害の進展や医療資源の状況に応じて、トリアージ区分は動的に再評価(再トリアージ)されます。
暗記のコツ
トリアージタグの色を「
レッドカーペット(赤→最優先!)で歩く黄色いカナリア(黄→待機的)、芝生の上(緑→軽傷)で黒星(黒→死亡)」など、色と緊急度をイメージで結びつけて覚えましょう。
国試頻出ポイント
災害看護の分野では、トリアージタグの色と状態の組み合わせが頻出です。特に
黒色タグの判断基準(無呼吸、ショック、意識レベルなど)と、
混同注意! 赤色タグとの鑑別は必ず押さえましょう。
出題パターン注意!
単純なタグ色と状態の組み合わせ問題だけでなく、「トリアージ実施中の看護師の心理的葛藤」や「倫理的ジレンマ」に関する状況設定問題も増加傾向にあります。