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在宅看護の役割と機能
問題

訪問看護師が、寝たきりの高齢者宅を訪問したところ、介護している長男が「母はもう長くないから、無駄な医療はしたくない。経管栄養も入れたくない」と話した。患者本人の意思は確認できていない。この時の看護師の対応で最も適切なのはどれか。

解説
患者本人の意思が確認できない場合、家族の意向だけで判断するのではなく、生前の患者の価値観や口癖、生活態度などから推定される意思(推定意思)を尊重することが倫理的に重要である。まずは家族と共に患者のこれまでの人生や考えを振り返り、情報を収集することが看護師の最初の対応として適切である。
同じテーマの次の問題在宅看護において、認知症の高齢者本人が「施設には入りたくない、自宅で最期まで過ごしたい」と強く希望している一方で、介護する妻が「夜間の不穏がひどく、もう限界です。施設入所を考えたい…

詳細解説

核心解説 この問題は、在宅看護論 (Home Health Nursing) および 終末期医療 (End-of-Life Care) における 倫理的ジレンマ (Ethical Dilemma) と看護師の役割を問うています。本人の意思が不明な場合、医療行為の差し控え・中止を検討する際に、最重要! 家族の意向だけで決定するのではなく、患者の 推定意思 (Substituted Judgment) を多職種で探求するプロセスが倫理的に求められます。 核心概念の分析 (Key Concept): 看護師は、終末期における 尊厳死 (Death with Dignity)インフォームド・コンセント (Informed Consent) のプロセスを支援する役割を担います。本人の意思が確認できない「意思決定能力の低下した患者 (Patient with Impaired Decision-Making Capacity)」においては、アドバンス・ケア・プランニング (Advance Care Planning, ACP) の有無を確認し、なければ家族から患者の人生観や価値観を丁寧に聴き取ることが、推定意思 (Substituted Judgment) を尊重する第一歩となります。 正解の根拠 (Answer Rationale): 長男の「母はもう長くないから、無駄な医療はしたくない」という発言は、家族なりの深い苦悩と愛情の表れです。看護師はまず、この家族の思いに共感しつつ、最重要! 医療行為の差し控えを決定する前に、「患者本人がどう生きたかったか、何を大切にしていたか」という 情報収集 (Assessment) を家族と共に行う必要があります。これは、日本看護協会の「終末期看護に関するガイドライン」や、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」にも合致する基本的な姿勢です。 誤答の分析 (Distractor Analysis): 混同注意! ①番は、患者本人の意向が全く反映されておらず、生命維持を前提とした医療パターナリズム(父権主義)にあたるため不適切です。 混同注意! ②番は、家族の意向だけを鵜呑みにした早急な判断であり、患者の推定意思を探る努力が不足しています。 混同注意! ③番は、医師の判断を仰ぐことは一つの選択肢ですが、看護師が最初に行うべきは、患者の価値観や背景に関する情報収集であり、医学的適応の判断はその次に行われるプロセスです。 混同注意! ⑤番の成年後見制度は、主に財産管理や身上保護のための制度であり、医療行為の差し控えに関する代理決定を直接行うための制度ではありません。まずは家族との対話の中で、患者本人の推定意思を探る努力が優先されます。 関連概念の整理 (Related Concepts): 終末期医療における重要なキーワードとして、DNAR(Do Not Attempt Resuscitation, 蘇生処置を行わない指示)リビングウィル (Living Will)ACP (Advance Care Planning) の概念も併せて整理しておきましょう。
概念整理:
概念定義と看護の視点
推定意思 (Substituted Judgment)患者本人が判断能力を失う前に表明していた意向や価値観、性格などから、本人が下すであろう判断を合理的に推定すること。
アドバンス・ケア・プランニング (ACP)将来の医療・ケアについて、本人・家族・医療チームが繰り返し話し合うプロセス。最重要! ACPがあれば推定意思の根拠となる。
倫理的ジレンマ (Ethical Dilemma)複数の倫理原則(自律尊重、無危害、善行、公正)が対立し、どちらか一方を選択できない板挟みの状況。

一目で比較!
比較項目成年後見制度 (Adult Guardianship System)ACP (Advance Care Planning)
主目的財産管理、契約、身上保護本人の価値観に沿った医療・ケアの実現
医療同意後見人に医療行為の同意権は原則なし(一部、身上監護の範囲で関与)本人の意向を医療チームと共有し、医療方針決定に活かす
開始時期判断能力が不十分な状態で、必要性が生じた場合判断能力がある時期から、繰り返し行うことが望ましい

看護過程ポイント: アセスメント (Assessment): 家族の言葉の背景にある感情(悲嘆、罪悪感、疲弊)を傾聴する。患者の人生史、性格、これまでの医療への態度、ACPの有無を確認する。 看護診断 (Nursing Diagnosis): 「意思決定の葛藤 (Decisional Conflict)」「家族の役割負担 (Caregiver Role Strain)」「死への不安 (Death Anxiety)」 計画 (Planning): 多職種カンファレンス(医師、訪問看護師、ケアマネジャー、薬剤師など)の開催を提案し、情報共有の場を設ける。 実施 (Implementation): 家族の心情に寄り添いながら、患者の価値観を整理する援助を行う。医師への橋渡し役を担う。 評価 (Evaluation): 家族が患者の推定意思を踏まえた納得のいく選択ができたか、精神的に安定しているか、多職種連携が機能しているかを評価する。
暗記のコツ: 「本人の意思が不明なときは、『推定(すいてい)』で『す』くい出せ、本人の価値観」と覚えましょう。焦って医学的判断や制度に走る前に、患者の人生を理解することが看護の出発点です。
国試頻出ポイント: 終末期医療における倫理問題は、毎年必ずと言っていいほど出題されます。「患者本人の意思が不明」という設定は鉄板のシチュエーションです。類似問題として、DNARの決定プロセス、小児の終末期における親の代理決定、精神疾患患者の意思決定支援などがあります。
出題パターン注意!: 状況設定問題で、家族から「もう延命治療はやめてください」と突然言われた場合、看護師がまず取るべき行動を問う形式が頻出です。正解は「医師にすぐ報告」ではなく、「家族の話を傾聴し、患者の意向に関する情報を集める」です。コミュニケーションと倫理的配慮が重視されます。

臨床シナリオ

臨床実践ガイド 臨床シナリオ (Clinical Scenario): 「80代後半の女性。脳梗塞後遺症で寝たきり状態。長男夫婦と同居し、訪問看護を利用している。ここ数週間、経口摂取量が減少し、肺炎を繰り返すようになった。訪問看護師が訪れると、長男が疲れ切った表情で『もう母に辛い思いをさせたくない。胃ろうも点滴もしてほしくないんです』と打ち明けた。妻(長男の嫁)は何も言わずにうつむいている。」 このシチュエーションで、あなたはどのように対応しますか? 看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment): 1. 観察 (Observation): 長男の表情、声のトーン、介護疲れの様子、妻の様子、患者の表情や呼吸状態、皮膚の乾燥の有無などを 非言語的コミュニケーション (Non-verbal Communication) で観察します。 2. アセスメント (Assessment): 長男の言葉を「母への深い愛情の裏返し」と捉え、否定せずに受け止めます。同時に、長男が極度の介護疲労(Caregiver Fatigue)にある可能性、夫婦間で意見の相違がある可能性をアセスメントします。 3. 傾聴と情報収集 (Active Listening & Data Collection): 「お母様のことを思っての言葉ですね。これまでお母様は、どんなことを大切にしてこられましたか?」と、開かれた質問(Open-ended Question)で患者の人生観を語ってもらう機会を作ります。ACPの有無も確認します。 4. 多職種連携 (Interprofessional Collaboration): 訪問看護ステーションに持ち帰り、医師やケアマネジャーと情報共有し、多職種で家族を支える方針を立てます。看護師は「家族と患者をつなぐ橋渡し役」であり、チームの中心的な調整役です。
看護プロトコル: - 観察項目: 家族の心理状態(抑うつ、不安)、介護負担感、家族メンバー間の力関係(キーパーソンは誰か)、患者の症状(痛み、呼吸苦、褥瘡の有無)。 - 報告基準 (SBAR): 「S(状況): 経口摂取が低下している患者さんの長男から、今後の延命治療を希望しないという意向が話されました。B(背景): 患者本人の意思は不明です。長男は介護疲れが見られます。A(アセスメント): 本人の推定意思を探るための多職種での話し合いが必要だと考えます。R(提案): 至急、主治医とサービス担当者会議の開催を検討いただけませんか。」 - 家族への説明: 「点滴や胃ろうをしないという選択も、お母様のために何が一番良いのかをみんなで考えるための一つの大切な選択肢です。焦らず、お母様がこれまでどんな風に生きてこられたか、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。」と伝え、家族を安心させ、共に考えるパートナーであることを示します。
先輩看護師の一言: 「良い選択だったね」と家族に寄り添えるのは看護師です。正解がないからこそ、患者さんが大切にしてきたことに思いを馳せ、家族が後悔しないプロセスを支えることが、私たちの一番大事な役割です。国試では『まず何をするか』を常に問われます。答えはいつも『患者さんの背景を理解しようとすること』ですよ。

重要概念

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