核心解説
この問題は、
シスプラチン (Cisplatin) という抗悪性腫瘍薬(白金製剤)の投与管理において、看護師が必ず理解すべき「前処置 (Premedication)」とその根拠を問うています。
最重要! シスプラチンは強力な抗腫瘍効果を持つ一方で、特に
腎毒性 (Nephrotoxicity) が非常に強く、この副作用を予防するための処置が投与の必須条件となります。
正解の根拠 (Answer Rationale)
最重要! 正解は
③番:大量輸液とマンニトール投与 - 腎障害の予防 です。
シスプラチンは主に腎臓の近位尿細管で代謝・排泄されますが、その過程で尿細管細胞に蓄積し、直接的な細胞障害を引き起こします。これを防ぐために、投与前から投与後にかけて
大量輸液(1日3000mL以上が標準) を行い、さらに
浸透圧利尿薬 (Osmotic Diuretic) であるマンニトール (Mannitol) を併用することで、尿量を強制的に増やし、尿細管内のシスプラチン濃度を希釈・低下させ、腎尿細管への曝露時間を短縮します。これにより腎障害のリスクを有意に低下させることができます。この大量輸液+マンニトール利尿は「シスプラチン投与の絶対条件」とも言われます。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意!
-
①番(アロプリノール投与 - 高尿酸血症の予防):これは主に
腫瘍崩壊症候群 (Tumor Lysis Syndrome, TLS) の予防目的で、シクロホスファミド (Cyclophosphamide) など他の抗がん剤で用いられることが多いです。シスプラチンでは第一選択ではありません。
-
②番(アセトアミノフェン投与 - 発熱の予防):発熱は主に
輸血反応 や
薬剤熱 で用いる解熱鎮痛薬ですが、シスプラチンの前処置として標準的ではありません。
-
④番(プロクロルペラジン投与 - 悪心・嘔吐の予防):シスプラチンは高度催吐性リスクの抗がん剤であり、制吐薬の投与(5-HT3受容体拮抗薬+NK1受容体拮抗薬+ステロイドの3剤併用)は非常に重要です。しかし、本問は「前処置」の中でも
最も必須で特徴的なもの を問うているため、③の腎保護が優先されます。
-
⑤番(ジフェンヒドラミン投与 - アレルギー反応の予防):これは主に
パクリタキセル (Paclitaxel) や
タキサン系抗癌薬 の投与前に行われる前投薬(プレメディケーション)であり、シスプラチンでは必須ではありません。
関連概念の整理 (Related Concepts)
白金製剤である
カルボプラチン (Carboplatin) も腎毒性がありますが、シスプラチンほど強くはなく、腎機能に応じて投与量を調整する(キャルバート式)のが特徴です。また、シスプラチン投与時には、腎保護に加えて
聴覚障害(耳毒性) や
末梢神経障害 にも注意が必要です。聴力検査(オージオグラム)を定期的に行うこともあります。
概念整理
-
薬剤:
シスプラチン (Cisplatin) - 白金製剤抗がん薬
-
最大の副作用:
腎障害(腎尿細管壊死) - 用量規定毒性 (Dose-limiting Toxicity)
-
予防策(前処置):
大量輸液(生理食塩液ベース)+マンニトール利尿 - 強制水利尿 (Forced Diuresis)
-
その他の有害事象:悪心・嘔吐(高度催吐性)、骨髄抑制、電解質異常(特にMg低下)、耳毒性、末梢神経障害
一目で比較!
| 薬剤 | 主な前処置・プレメディケーション | 主な目的(予防対象) |
| シスプラチン (Cisplatin) | 大量輸液 + マンニトール + 制吐薬(3剤併用) | 腎障害、悪心・嘔吐 |
| パクリタキセル (Paclitaxel) | ステロイド + H1ブロッカー + H2ブロッカー(例:デキサメタゾン+ジフェンヒドラミン+ファモチジン) | アレルギー反応(過敏症) |
| シクロホスファミド (CPA) | 大量輸液 + メスナ + アロプリノール | 出血性膀胱炎、腫瘍崩壊症候群 |
| リツキシマブ (Rituximab) | アセトアミノフェン + ジフェンヒドラミン | インフュージョンリアクション(発熱・悪寒) |
看護過程ポイント
-
アセスメント:投与前の腎機能(BUN, 血清Cr, eGFR)、電解質(Mg, K, Ca)、聴力、全身状態(PS)を確認。特に
血清Crが基準値上限を超えている場合は投与延期・減量の判断が必要。
-
看護診断:「腎障害リスク状態」「悪心・嘔吐」「感染リスク状態」「聴覚障害リスク状態」など。
-
計画・実施:投与前後の
正確な輸液量の管理(輸液ポンプ使用)、
尿量のモニタリング(1時間ごとの尿量測定、目標100~200mL/h)、体重・浮腫の観察。
-
評価:投与後も腎機能(特にCrの上昇の有無)と尿量を継続モニタリング。悪心・嘔吐の程度、聴力変化の自覚症状の有無を確認。
暗記のコツ
「シスプラチンは
『シス(腎)』 と覚えましょう!腎臓に障害を起こすから、腎臓を『水(大量輸液)で洗い流す』イメージです。マンニトールは『マン(満)タン(タンク)』=膀胱を満タンにして流す、と覚えると印象に残りやすいです。」
国試頻出ポイント
- シスプラチンの
腎毒性予防 は、看護師国家試験で毎年と言っていいほど出題される最重要項目です。
- 「大量輸液 + マンニトール」という選択肢がそのまま正解になるパターンが非常に多いです。
- 他の抗癌薬(パクリタキセルのアレルギー予防、シクロホスファミドの出血性膀胱炎予防)とセットで出題されることも多いため、上記の比較表は必ず暗記しましょう。
出題パターン注意!
「60歳男性、肺がん。シスプラチン療法開始予定。看護師の行うべき対応として適切なのはどれか。」といった
状況設定問題 (Case Study) で、投与前の腎機能評価や患者指導(「治療中は十分な水分をとってください」「耳鳴りがしたらすぐ教えてください」)を問う形に発展することもあります。