核心解説
この問題は、
バソプレシン (Vasopressin / Antidiuretic Hormone: ADH) の分泌調節機序に関する基本的な理解を問うています。ADHは、体内の水分量を調節し、
血漿浸透圧 (Plasma Osmolality) と
循環血液量 (Circulating Blood Volume) を一定に保つために分泌される重要なホルモンです。この調節は、生体のホメオスタシス(恒常性)維持に直結するため、看護師国家試験では頻出のテーマです。ADHの分泌促進因子と抑制因子を明確に区別することが解答の鍵となります。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は④の
血漿浸透圧の上昇 です。
最重要! 体内の水分が不足し、血液が濃縮されると血漿浸透圧が上昇します。この変化を視床下部の
浸透圧受容体 (Osmoreceptor) が感知し、下垂体後葉からのADH分泌を促進します。ADHは腎臓の
集合管 (Collecting Duct) に作用し、水の再吸収を促進することで、体内の水分を保持し、血漿浸透圧を正常範囲に戻そうとします。つまり、
「浸透圧が上がった → 水分をため込もうとしてADHが出る」という流れが最も重要な分泌促進機序です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! ここでは「分泌を促進する因子」が問われています。「分泌を抑制する因子」と混同しないようにしましょう。
①
混同注意! 心房伸展(Atrial Stretch): 循環血液量が増加して心房が伸展されると、
心房性ナトリウム利尿ペプチド (ANP) が分泌され、ADHの分泌は抑制されます。よって促進因子ではありません。
②
血漿浸透圧の低下(Decreased Plasma Osmolality): これはADH分泌を強力に抑制する因子です。浸透圧が低下している時は、体内の水分が過剰な状態なので、ADH分泌を止めて尿量を増やし、余分な水分を排出しようとします。
③
血圧の上昇(Increased Blood Pressure): 血圧が上昇すると、頸動脈洞や大動脈弓の
圧受容体 (Baroreceptor) が刺激され、反射的にADH分泌は抑制されます。一方、血圧の低下(循環血液量の減少に伴う)はADH分泌を促進する強力な刺激となります。
⑤
循環血液量の増加(Increased Circulating Blood Volume): 血液量が増えると、心房伸展(①と同様)や血圧上昇(③と同様)を介してADH分泌は抑制されます。ADH分泌を促進するのは循環血液量の
減少です。
関連概念の整理 (Related Concepts)
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ADH分泌異常症: ADHの過剰分泌により水貯留と低ナトリウム血症をきたす
SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群) と、ADH分泌低下により尿崩症をきたす
中枢性尿崩症 (Central Diabetes Insipidus) は併せて覚えましょう。
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関連ホルモン:
アルドステロン (Aldosterone) はナトリウムの再吸収を促進するため、間接的にADHの分泌に関与します。両者の作用を対比して理解すると効果的です(ADH=水の再吸収、アルドステロン=Naの再吸収)。
概念整理
| 状態 | 血漿浸透圧 | 循環血液量 | ADH分泌 |
|---|
| 脱水 (Dehydration) | 上昇 | 減少 | 促進 |
| 水分過剰 (Overhydration) | 低下 | 増加 | 抑制 |
| 大量出血 (Hemorrhage) | 正常~軽度低下 | 著明に減少 | 強力に促進 |
一目で比較!
ADH分泌促進因子 vs 抑制因子
| カテゴリ | 促進因子 | 抑制因子 |
|---|
| 浸透圧 | 上昇 | 低下 |
| 血液量/血圧 | 減少/低下 | 増加/上昇 |
| その他 | ストレス、疼痛、ニコチン、オピオイド | アルコール、ANP、ドパミン |
看護過程ポイント
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アセスメント: 患者の
水分出納バランス (Intake/Output) を正確に測定し、
血清Na濃度 や
尿量・尿浸透圧 の変化をアセスメントします。意識レベルの変化(低Na血症による意識障害)にも注意が必要です。
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看護診断: 「
体液量過剰 (Excess Fluid Volume)」または「
体液量減少 (Deficient Fluid Volume)」がADH分泌異常に応じて優先されます。
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計画・介入: 医師の指示に基づいた輸液管理、電解質補正、薬剤(トルバプタン等)の投与管理、バイタルサインと尿量のモニタリングを実施します。
暗記のコツ
ADHの分泌は「
濃い(浸透圧高い)→ 水をためたい!」「
血が足りない(循環血液量少ない)→ 水をためたい!」というイメージで覚えましょう。反対に「薄い(浸透圧低い)」「血が多い」時は、水をためる必要がないのでADHは出ません。
国試頻出ポイント
ADHの問題は、単独の知識としても出題されますが、心不全やSIADH、尿崩症といった疾患の病態や治療、術後の患者管理(特に水分電解質バランス)の文脈と組み合わせた事例問題としても頻出です。「血漿浸透圧が上がったらADHが出る」という基本をしっかり押さえておきましょう。