核心解説
この問題は、
細胞障害 (Cell Injury) の病態生理における可逆性と不可逆性の形態学的変化の鑑別を問うています。細胞が何らかのストレス(低酸素、毒素、感染など)を受けると、まず
適応・可逆性障害 の段階を経て、やがて
不可逆性障害(細胞死) に至ります。この可逆性の境界線を形態学的に判断することが、病理学の基本であり、臨床では臓器障害の重症度評価や治療のタイミングに直結します。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は
③番:ミトコンドリアの膨化 (Mitochondrial Swelling) です。
細胞障害の初期段階(可逆性)では、
最重要! 細胞膜の
Na+/K+ATPase(ナトリウムポンプ) が障害され、ATP産生が低下します。これにより細胞内にナトリウム(Na⁺)と水が流入し、まず
小胞体 (Endoplasmic Reticulum) や
ミトコンドリア (Mitochondria) が膨化(スウェリング)します。この変化は
電子顕微鏡レベルで最も早期に観察 され、ストレスが除去されれば元に戻る可逆的な変化です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
①
細胞質の空胞化 (Cytoplasmic Vacuolation):ミトコンドリア膨化や小胞体拡張を反映した所見で、これも可逆性障害で見られますが、ミトコンドリア膨化に続発する変化であり、「最も早期」ではありません。
②
細胞膜の断裂 (Plasma Membrane Rupture):
混同注意! 細胞膜の断裂は
不可逆性障害(ネクローシス) の特徴であり、細胞内容物が漏出し、炎症反応を引き起こします。可逆性ではありません。
④
核の断片化 (Karyorrhexis):核が断片化する変化で、
混同注意! これは
ネクローシス(壊死)の後期変化 であり、不可逆性です。
⑤
核の濃縮 (Pyknosis):核が縮小し、ヘマトキシリンに濃染する変化。これも
ネクローシスやアポトーシスにおける不可逆的な核の変化 です。
関連概念の整理 (Related Concepts)
| 分類 | 形態学的変化 | 可逆性 |
|---|
| 可逆性細胞障害 | 細胞膨化(ミトコンドリア膨化、小胞体拡張)、細胞質空胞化、好酸性変化 | 可逆 |
| 不可逆性細胞障害(ネクローシス) | 核濃縮 (Pyknosis) → 核断片化 (Karyorrhexis) → 核融解 (Karyolysis)、細胞膜断裂、好酸性増強 | 不可逆 |
概念整理: 可逆性細胞障害の鍵は「細胞とその小器官の膨化(水の流入)」であり、不可逆性の鍵は「核の変化と細胞膜の断裂」です。この境界を形態学的に理解することが重要です。
一目で比較!:
混同注意! ネクローシス (Necrosis) vs アポトーシス (Apoptosis) の細胞死の様式も合わせて整理すると良いでしょう。ネクローシスは受動的で炎症を伴い、アポトーシスは能動的で炎症を伴いません。
暗記のコツ: 「ミトコンドリア膨化」=「早期可逆性障害のシグナル」と覚えましょう。「ミトコンドリアはATP工場。工場が水浸しになると機能低下(可逆)」→「水が引き、工場が復旧するか(可逆)、工場が完全に壊れるか(不可逆)」というイメージです。
国試頻出ポイント: 細胞障害の可逆性判断は、病理学の基本であり、臨床では
急性腎障害 (AKI) や
急性心筋梗塞 (AMI) の虚血時間と組織障害の程度を関連付けて出題されることが多いです。
出題パターン注意!: 単純な用語定義問題から、「虚血再灌流障害におけるミトコンドリア透過性遷移孔 (mPTP) の開放」など、病態生理と関連付けた発展問題にも対応できるよう、根本原理を押さえましょう。