核心解説
この問題は、
股関節 (Hip Joint) の正常な構造と機能に関する基礎知識を問うものです。股関節は人体で最も大きな
球関節 (Ball-and-Socket Joint) であり、体重を支えながら広い可動域を有するため、その解剖学的構造を正確に理解することが重要です。特に、関節の安定性を提供する骨性構造、靭帯、関節包の特徴は、変形性股関節症 (Osteoarthritis of the Hip) や大腿骨頸部骨折 (Femoral Neck Fracture) の病態や看護介入(術後の脱臼予防など)を理解する上での基盤となります。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): 問題の核心は「股関節の解剖学的特徴」です。具体的には、
寛骨臼 (Acetabulum) による大腿骨頭 (Femoral Head) の被覆率、
関節包と靭帯の強度と方向、そして
靭帯内を通過する血管の有無です。これらの知識は、股関節の安定性のメカニズムと、疾患や術後に注意すべき動作を理解するために必須です。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale): 正解は⑤です。股関節の寛骨臼は、腸骨 (Ilium)、坐骨 (Ischium)、恥骨 (Pubis) の3つの骨が思春期以降に癒合して形成されます。この癒合の理解は、骨盤の全体像を把握する上で非常に重要です。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
- ①番:
混同注意! 「大腿骨頭は寛骨臼の深さの約3分の1が覆われている」という記述は誤りです。正しくは、大腿骨頭の
約2/3 (約3分の2) が寛骨臼に覆われています。被覆率が低いほど関節は不安定になりますが、股関節は安定性を重視した構造です。1/3という値は、肩関節 (Shoulder Joint) など他の球関節の被覆率と混同しないようにしましょう。
- ②番: 円靭帯 (Ligamentum Teres / Round Ligament) の説明として「栄養血管の通り道」は正しいのですが、問題文では「大腿骨頭への栄養血管の通り道」と限定されています。円靭帯は関節包内にあり、その中を
大腿骨頭靭帯動脈 (Artery of Ligamentum Teres) が走行し、大腿骨頭の一部に栄養を供給します。しかし、成人の大腿骨頭への主要な栄養源は、関節包を貫く
後上・後下大腿回旋動脈 (Medial Circumflex Femoral Artery) です。そのため、円靭帯内の血管は主要な栄養血管ではなく、副次的な経路であることを理解する必要があります。
混同注意! 大腿骨頸部骨折では、この後上・後下大腿回旋動脈が損傷されやすく、大腿骨頭壊死 (Avascular Necrosis of Femoral Head) の原因となります。
- ③番:
混同注意! 「関節包は薄く、後方に特に脆弱である」という記述は誤りです。股関節の関節包は、体重を支えるために
非常に強靭 です。また、関節包の厚さは部位によって異なり、前方が最も厚く、後方や下方がやや薄いとされています。「前方が厚く、後方が脆弱」という特徴は肩関節と混同しやすいポイントです。股関節では前方の関節包が厚いため、股関節伸展時に前方の関節包が緊張します。
- ④番:
混同注意! 「腸骨大腿靭帯 (Iliofemoral Ligament) は股関節の屈曲を制限する」という記述は誤りです。腸骨大腿靭帯は人体で最も強力な靭帯の一つであり、股関節の
過伸展 (Hyperextension) を制限します。立位姿勢の維持に重要な役割を果たします。股関節の屈曲を制限するのは、主に
坐骨大腿靭帯 (Ischiofemoral Ligament) や
大臀筋 (Gluteus Maximus) の緊張です。
概念整理:
-
股関節の安定性: 深い寛骨臼(大腿骨頭の約2/3を被覆) + 強靭な関節包(特に前方) + 強力な靭帯(腸骨大腿靭帯など)により、体重支持に適した高い安定性を確保。
-
大腿骨頭への血液供給: 主に
大腿回旋動脈(後上・後下大腿回旋動脈)が関節包を貫いて供給。円靭帯内の動脈は補助的。この血管の損傷が大腿骨頭壊死(AVN)を引き起こす。
-
寛骨臼の構成: 腸骨・坐骨・恥骨の3骨癒合。
一目で比較!:
| 項目 | 股関節 (Hip Joint) | 肩関節 (Shoulder Joint) |
|---|
| 関節のタイプ | 球関節 (臼が深い) | 球関節 (臼が浅い) |
| 骨頭被覆率 | 約2/3 | 約1/3 |
| 関節包 | 強靭 (特に前方が厚い) | 薄く弛緩 (特に前方が脆弱) |
| 安定性 vs 可動性 | 安定性重視 | 可動性重視 |
| 主な脱臼方向 | 後方脱臼 | 前方脱臼 |
看護過程ポイント:
-
アセスメント: 股関節手術(例:人工股関節全置換術 THA)後の患者では、
脱臼予防のために関節包や靭帯の構造(特に後方関節包の脆弱性)を理解し、
最重要! 術後は「股関節を90度以上屈曲しない」「内転・内旋をしない」などの制限動作を指導する根拠となります。
-
看護診断: 「転倒リスク状態」「術後創部痛」「身体可動性障害」
-
計画・実施: 脱臼肢位を避けるためのベッド上でのポジショニング、トイレ動作や靴下の着脱動作の指導。
暗記のコツ:
- 「寛骨臼 (Acetabulum)」は「腸骨 (Ilium) + 坐骨 (Ischium) + 恥骨 (Pubis)」で覚える語呂合わせ: 「
腸を
坐って
恥をかく」
- 大腿骨頭の被覆率「2/3」は、股関節が「に(2)くい」ほど安定しているとイメージ。
国試頻出ポイント:
- 大腿骨頸部骨折や人工股関節全置換術 (THA) の術後看護と関連づけて出題される。
- 脱臼予防のための肢位・動作制限の根拠として、関節包や靭帯の特徴が問われる。
- 大腿骨頭壊死 (AVN) の原因として、大腿回旋動脈の損傷が重要。
出題パターン注意!:
- 単純な解剖知識問題から、「大腿骨頸部骨折を受傷した80歳女性の術後、看護師が指導すべきでない動作はどれか」といった状況設定問題に発展する。
- 人工股関節置換術後の患者に「股関節を90度以上曲げてはいけない」理由を問う形式でも頻出。