看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
救急病棟に搬送された45歳男性。2日前からの発熱、悪寒戦慄、そして家族から「ぼーっとしている」と連絡があり受診。アセスメントでは、顔面紅潮、皮膚は触ると温かい(温熱感)。血圧
88/50 mmHg、心拍数
122/分、呼吸数
28/分、SpO2 94%(room air)。あなたは担当看護師です。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
一次評価 (Primary Survey) と迅速な対応: ABC(気道、呼吸、循環)を評価。酸素投与を開始し、
2本の太い末梢ラインを確保。医師の指示のもと、
乳酸採血 (Lactate)と血液培養を行い、広域スペクトラム抗菌薬を早期に投与します。
2.
継続的ヘモダイナミクスモニタリングの確立: 医師が
中心静脈カテーテル (CVC)を挿入。挿入後、
CVPとARTラインによる連続血圧(MAP)モニタリングを開始します。これらの数値を常に視野に入れられるよう、モニターを配置します。
3.
目標指向型治療のサポート:
- CVP < 8 mmHg: 輸液負荷(生理食塩水や乳酸リンゲル液)を開始。CVPが8-12 mmHgに達するまで、一定時間ごとに輸液を投与し反応を見ます。
- CVPが適正でもMAP < 65 mmHg: 医師の指示で昇圧薬(ノルアドレナリン)の持続静脈内投与を開始。投与ポンプを使用し、厳密な速度管理を行います。
4.
総合的アセスメント: 尿量(膀胱カテーテル留置)、意識レベル、皮膚色・温冷感、末梢灌流(毛細血管再充満時間)を定期的に評価し、治療反応を多面的に判断します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
- 昇圧薬投与時の重大注意: ノルアドレナリンは強力な血管収縮薬です。混同注意! 薬液が血管外に漏出すると、組織壊死を引き起こす危険性があります。中心ラインからの投与が原則です。末梢ラインでやむを得ず投与する場合は、濃度を希釈し、投与部位を頻回に観察します。
- CVPラインの管理: 閉鎖回路を維持し、無菌操作を厳守します。ゼロ点校正を定期的に行い、正確な測定を確保します。
- 過剰輸液のリスク: 敗血症性ショックでは血管透過性が亢進しているため、輸液過剰により肺水腫 (Pulmonary edema)を来すリスクがあります。CVP上昇とともに呼吸状態(SpO2、呼吸音、呼吸困難)の悪化に注意します。
看護処置と与薬フロー
ノルアドレナリン持続投与時の看護師の役割
1.
準備: 医師の指示書(濃度、速度)をダブルチェック。専用のシリンジポンプと延長チューブを準備。
2.
投与経路確認:
必ず中心静脈ラインから投与。末梢ライン使用時は医師とリスクを共有し、合意を得る。
3.
開始とモニタリング: 設定速度で投与開始。
5分ごとに血圧(特にMAP)を確認し、目標値に達しているか評価。医師の指示に従い速度を調整。
4.
観察: 投与部位の観察(発赤、腫脹、疼痛なしか)。患者の自覚症状(胸痛、動悸など)と心電図モニター(不整脈の有無)を観察。
先輩看護師からの一言
「ショック患者を受け持ったら、まず頭に浮かべるのは『
循環を支える』ことです。血圧の数字だけ追うのではなく、『なぜ血圧が低いのか?(血液量不足?血管が緩んでいる?心臓が弱っている?)』をCVPや心エコーなどのデータから推論し、看護ケアに結びつけることがプロの看護師です。この患者さんでは、温かい皮膚から『血管が拡張している』と推測し、輸液と昇圧薬が鍵になることを理解できますね。国家試験も、このような『病態に基づいた臨床推論』ができるかを問う問題が増えています。暗記だけでなく、『なぜ?』を大切に勉強してください!」