看護学のコア解説
この問題は、
心原性ショック (Cardiogenic shock)の患者における
体液量と前負荷 (Preload) の管理の優先順位を問うています。心原性ショックは、心臓のポンプ機能の著しい低下により、全身の臓器に必要な酸素を供給できない状態です。
重要概念の分析 (Key Concept)
問題の患者は、
中心静脈圧 (CVP) 18 mmHgを示しています。CVPは右心房圧を反映し、右心系の前負荷(血液量)の指標です。正常値は
2-8 mmHgであり、18 mmHgは明らかに高い値です。これは、
左心不全 (Left-sided heart failure)により血液が肺循環にうっ滞し、それが右心系に波及して
右心不全 (Right-sided heart failure)を合併し、全身の静脈系にうっ血が生じている状態(両心不全)を示唆します。心原性ショックでは、心筋の収縮力が低下しているため、過剰な前負荷は心臓の壁張力を増大させ、心筋の酸素消費量を増やし、かえって心機能を悪化させます。
ここがポイント! 治療の原則は、
「心臓の仕事量を減らし(前負荷・後負荷を下げ)、収縮力をサポートする」ことです。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解の①「指示通りフロセミド40mgを静脈内投与し、前負荷を減らす」は、この原則に完全に合致します。
フロセミド (Furosemide)はループ利尿薬であり、腎臓のヘンレ係上行脚でのナトリウムと水の再吸収を阻害し、急速な利尿作用をもたらします。これにより循環血液量が減少し、静脈還流量(前負荷)が低下します。結果として、うっ血した肺や全身の静脈系の負担が軽減され、心臓の仕事量が減り、心機能改善につながります。高いCVPは、まさにこの介入が必要な明確な根拠です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! ②「ドパミン点滴速度を15 mcg/kg/minに増やす」:ドパミンは用量によって作用が異なります。5-10 mcg/kg/minでは主に
β1受容体刺激による心収縮力増強作用が主体ですが、10 mcg/kg/minを超えると
α受容体刺激による血管収縮作用が強くなります。既に10 mcg/kg/minで投与中であり、さらに増量すると末梢血管抵抗(後負荷)が急激に上昇し、弱った心臓により大きな負荷をかける危険があります。心原性ショックでは、過度な血管収縮は避けるべきです。
③「トレンデレンブルグ体位にして静脈還流を改善する」:この体位は下肢を高くすることで静脈還流量を人為的に増加させ、前負荷をさらに上昇させます。心原性ショックで前負荷が既に過剰な状態(高CVP)である患者には禁忌です。むしろ
ファウラー位 (Fowler's position)や
起坐位 (Sitting position)が呼吸困難の軽減と前負荷軽減に有効です。
④「直ちに挿管と人工呼吸の準備をする」:心原性ショックでは肺水腫による重度の低酸素血症が生じることがあり、人工呼吸管理は重要な治療の一つです。しかし、この選択肢は「体液量と前負荷の管理」という質問の焦点からは外れています。また、優先順位として、薬物による前負荷軽減(利尿薬投与)がまず試みられ、それでも呼吸状態が改善しない場合に次のステップとして考慮されます。
関連概念の整理 (Related Concepts)
心原性ショックの治療は、
「利尿(前負荷軽減)」、「血管拡張(後負荷軽減)」、「強心(収縮力増強)」の3本柱です。ドパミンは強心作用を持つ薬剤ですが、前負荷が過剰な状態ではまずその是正が優先されます。看護師は、バイタルサイン、尿量、呼吸音、末梢冷感、意識レベルなどを継続的にモニタリングし、治療効果と副作用を評価することが求められます。
概念のまとめ
・心原性ショック:心ポンプ機能不全によるショック。治療は心臓の仕事量軽減が基本。
・前負荷 (Preload):心臓の拡張末期の容積(血液量)。CVPは右心系の前負荷の指標。
・CVP 18 mmHg:明らかな高値。体液過剰/うっ血の状態を示す。
・フロセミド:ループ利尿薬。急速な利尿により循環血液量と前負荷を減少させる。
一目で比較!
| 介入 | 作用 | 心原性ショック(前負荷過剰時)での評価 |
|---|
| フロセミド静注 | 利尿・前負荷減少 | 優先すべき介入。心仕事量を減らす。 |
| ドパミン増量 (>10mcg/kg/min) | 強心+強い血管収縮(後負荷増加) | リスクが高い。弱った心臓に負荷をかける。 |
| トレンデレンブルグ体位 | 静脈還流増加・前負荷増加 | 禁忌。うっ血を悪化させる。 |
| 人工呼吸準備 | 酸素化の確保 | 呼吸不全があれば必要だが、最初の優先介入ではない。 |
解剖生理と薬理のポイント
・
フランク・スターリングの法則 (Frank-Starling law):一定範囲内では、心筋の伸展(前負荷の増加)に比例して収縮力が増す。しかし、心不全ではこの曲線が下方にシフトし、過剰な前負荷はかえって心拍出量を減少させる。
・ドパミンの用量依存的作用:低用量(1-5 mcg/kg/min)→ 腎血管拡張、中用量(5-10)→ β1刺激(強心)、高用量(>10)→ α刺激(血管収縮)。
・CVP測定:ゼロ点を右心房の高さ(中腋下線レベル)に合わせて測定する。
暗記のコツとゴロ合わせ
・心原性ショックの治療優先順位:「まずは水を抜け(利尿)、その後で力を貸せ(強心)、血管は広げろ(血管拡張)」。
・トレンデレンブルグ体位の禁忌:「心が苦しい(心不全・心原性ショック)ときは、足を上げるな」。
国試頻出ポイント
心原性ショックとCVPの組み合わせは頻出です。「CVPが高い=前負荷過剰=利尿薬(フロセミド)が第一選択」の流れを覚えましょう。また、ドパミンの作用や体位の影響についても合わせて問われることが多いです。
国試出題パターンの変化に注意!
同じ「心原性ショック、CVP高い」という状況でも、「最も優先する看護ケアは?」「医師に報告すべきデータは?」「フロセミド投与時の観察項目は?」など、問われる角度が変わります。常に「なぜそのケアが必要なのか」という病態生理に基づいた根拠を考えられるようにしておきましょう。