看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
「内科病棟で、アジソン病の既往がある60歳男性が、感冒後に悪心・嘔吐、強い脱力感を訴え来院。バイタルサインは、血圧88/50 mmHg、脈拍120回/分、微弱、呼吸24回/分、体温37.8℃。皮膚は著明な色素沈着があり、冷たく湿っている。意識はやや混濁している。」
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
一次評価 (Primary Assessment):ABC(気道、呼吸、循環)の安定を確認。ただちにモニター装着(心電図、SpO2、自動血圧測定)。
2.
最優先介入 (Priority Intervention):太い静脈路(18G以上)を2本確保。1本は医師の指示に基づき、
ヒドロコルチゾン100mgの静脈内ボーラス投与 (IV bolus of hydrocortisone 100mg)を行う。もう1本は、生理食塩水などの等張液による急速輸液を開始する。
3.
継続的ケアとモニタリング (Ongoing Care & Monitoring):血圧、脈拍、意識レベルを頻回に観察。血糖値、電解質(Na, K)、血中コルチゾール値の採血を行う。低血糖があれば、ブドウ糖液を投与。
4.
患者教育と予防 (Patient Education & Prevention):安定後、患者と家族に「ストレス時(発熱、下痢、外傷など)には、主治医の指示に従い経口ステロイドを
増量 (Stress dosing)すること」「緊急時用のステロイドカードやブレスレットを携帯すること」を指導する。
看護処置と与薬フロー
| ステップ | 看護アクション | 根拠と注意点 |
|---|
| 1. アセスメント | バイタルサイン、意識レベル、皮膚所見(色素沈着、湿潤)、嘔吐の有無を迅速に評価。 | 低血圧、頻脈、意識変容は循環虚脱のサイン。色素沈着は原発性副腎不全の特徴。 |
| 2. 静脈路確保 | 可能な限り太い末梢静脈路を2本確保する。 | ホルモン投与と輸液を同時に行うため。ショック時は血管が虚脱しているため難易度が上がる。 |
| 3. 薬剤投与 | 医師の指示により、ヒドロコルチゾン(ソル・コーテフ等)100mgを生食などで希釈し、静脈内ボーラス投与。 | 混同注意! ゆっくり投与(2-3分以上)。急速投与は血管痛や不整脈の原因となる。 |
| 4. 輸液開始 | 生理食塩水などの等張液を急速に投与開始(例:最初の1時間で1L)。 | 低血圧と低ナトリウム血症の是正。心不全の既往がある場合は速度に注意。 |
| 5. モニタリング | 投与後15-30分毎に血圧・脈拍を測定。血糖、電解質をモニター。 | 治療反応を評価。血圧上昇、意識清明化が期待される。 |
先輩看護師からの一言
「副腎クリーゼは『見逃したら命に関わる』緊急事態の代表格です。アジソン病の患者さんが『だるくて立てない』と訴えたら、それは単なる疲れではなく、
副腎クリーゼの初期サインかもしれないと常に頭の片隅に置いておきましょう。迅速な静脈路確保とホルモン投与は、看護師の腕の見せ所。日頃から静脈穿刺の技術を磨き、緊急時に慌てず対応できるように準備しておくことが、プロの看護師としての責任です!」