看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
あなたは外科病棟の看護師です。バセドウ病でメルカゾールを内服中だが症状が持続する40歳の患者が、翌日の甲状腺全摘術のために入院しました。患者は「手術が怖い」と訴え、脈拍は110回/分、手指に細かい震えが見られます。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
術前薬剤管理の徹底:処方されたヨード液(例:ルゴール液)の投与を確実に行います。ヨード液は通常、水やジュースで希釈し、ストローで飲むように指導します(歯の着色と味覚障害を防ぐため)。投与スケジュールと副作用(皮疹、唾液腺の腫脹、感冒様症状)についても説明します。
2.
全身状態のアセスメント:バイタルサイン(特に心拍数と血圧)、体重、不安の程度、睡眠状態を評価します。β遮断薬が処方されていれば、心拍数のコントロール状況を確認します。
3.
甲状腺クリーゼの予防と早期発見:患者に説明し、過度の興奮やストレスを避けるよう促します。発熱、著明な頻脈・不整脈、高度の不安・錯乱、悪心・嘔吐、下痢などの
甲状腺クリーゼの徴候がないか注意深く観察します。
4.
術前教育と心理的サポート:手術の方法、術後の痛み管理、声の出し方の変化の可能性、頸部のドレーンについて説明します。不安を傾聴し、質問に丁寧に答えることで、患者の精神的準備を支援します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
ヨード剤は、抗甲状腺薬(メルカゾールなど)で甲状腺ホルモン値が正常範囲に近づいてから開始するのが原則です。そうでないと、ヨード剤が甲状腺ホルモンの原料となり、一時的に症状が悪化する(ヨード誘発性甲状腺機能亢進症)リスクがあります。医師の指示通りの順序とタイミングを必ず守りましょう。
看護処置と与薬フロー
| 時期 | 介入の目的 | 具体的な看護ケア・与薬 |
|---|
術前 (数週間〜数日前) | 甲状腺機能を正常化し、手術リスクを低減 | 抗甲状腺薬の継続内服。ヨード液の開始(術前10〜14日間)。β遮断薬による症状コントロール。 |
| 術前日 | 最終的な術前準備と状態確認 | ヨード液の最終投与。バイタルサインの最終確認。甲状腺クリーゼ徴候の有無を評価。術前説明の再確認と同意書の確認。 |
| 術後直後 | 合併症の早期発見と気道確保 | 呼吸状態、声の質、創部の出血・腫脹の観察。頸部後屈を避ける体位(半坐位など)。 |
| 術後1〜2日 | 低カルシウム血症のモニタリング | 手指・口唇のしびれ、テタニー、Chvostek徴候/Trousseau徴候の有無を観察。血清カルシウム値の結果を確認。 |
先輩看護師からの一言
「甲状腺手術の患者さんは、術前から『声が変わらないか』『傷跡が目立たないか』『一生薬を飲み続けるのか』など、多くの不安を抱えています。看護師として、確実な術前準備(特にヨード剤の管理!)で身体的リスクを最小限に抑えるとともに、患者さんの声に耳を傾け、一つひとつ不安を解消していくことが、安全な手術とスムーズな回復への最大の貢献になります。国試でも『時期(術前 vs 術後)』と『介入の目的』をセットで覚えることがポイントですよ!」