看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
あなたは内科病棟の看護師です。65歳の男性患者、COPDと喘息の既往歴があり、呼吸困難の増悪で入院。2時間前から持続的にアルブテロールネブライザーを実施していますが、呼吸苦は軽快せず、会話も途切れ途切れで、顔面には疲労と不安の表情が見られます。バイタルサイン:SpO2 90%(4L 経鼻カニューレ)、呼吸数 32回/分、努力性呼吸。ピークフローメーターで測定すると、本人の過去最高値(500L/分)に対し175L/分(35%)でした。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
アセスメントと迅速な通報:上記のデータ(低PEFR、低SpO2、疲労・不安)を総合し、「薬剤に反応しない重度の気道閉塞と切迫した呼吸不全」と判断します。直ちに主治医または救急チームに状況を報告し、「挿管の可能性が高い」ことを伝えます。
2.
挿管・人工呼吸器管理の準備(最優先):蘇生カート(除細動器を含む)、気管挿管セット(適切なサイズの気管チューブ、喉頭鏡、スタイレットなど)、人工呼吸器を患者のベッドサイドに準備します。吸引器が作動することを確認します。
3.
患者の安全確保とモニタリング:患者の状態が急変する可能性が高いため、絶対に一人にしないようにします。継続的にSpO2、心拍数、呼吸数、意識レベル(
グラスゴー・コーマ・スケール (GCS))をモニタリングします。静脈路が確保されていることを確認します。
4.
並行するケア:医師の指示に基づき、静脈内ステロイド(例:メチルプレドニゾロン)の投与を準備・実施します。酸素投与は継続しますが、COPD患者であることを念頭に、過剰な酸素投与(SpO2 > 92-94%)にならないよう注意深く調整します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
混同注意! 重度の喘息/COPD増悪患者に安易に鎮静剤を投与してはいけません。呼吸を駆動しているのは不安や「空気飢餓感」である可能性があり、鎮静により呼吸抑制が起こり、急激に状態が悪化する危険があります。挿管前の鎮静は、気道確保の準備が整った上で、医師の指示のもと慎重に行われます。
看護処置と与薬フロー
| 状況 | 看護師のアクション | 根拠と注意点 |
|---|
| 切迫した呼吸不全の兆候を認めた時 | 1. 医師へ緊急連絡。 2. 蘇生カート・挿管セット・人工呼吸器を準備。 3. 患者を一人にしない。 | 迅速な気道確保が生死を分ける。準備が整っていることがチームの対応速度を決める。 |
| 静脈内ステロイド投与の指示時 | 1. 指示内容(薬剤、量、投与速度)をダブルチェック。 2. 急速投与可能な場合が多いが、施設のプロトコルに従う。 3. 血糖値上昇などの副作用に留意。 | ステロイドは炎症抑制に必須だが、効果発現まで時間がかかる。緊急時は遅延なく投与。 |
先輩看護師からの一言
「呼吸器疾患の患者さんで最も怖いのは、『静かなる呼吸不全』です。喘鳴が聞こえなくなった、努力性呼吸があるのに呼吸音が遠のいた、急に無気力になった…これらは気道が完全に閉塞しかけているか、呼吸筋が疲れ果てているサインかもしれません。ピークフローやSpO2の数字も大事ですが、何よりも『患者さんの全身の様子』を観察する看護師の目が命を救います。国試でも『優先度』を問う問題は、『今、最も命に関わる危険は何か?』を常に考えれば解けるはずです!」