看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
あなたは腎臓病病棟の看護師です。在宅で継続的携行式腹膜透析(CAPD)を行っている患者が、「お腹が激しく痛くて、出てくる透析液がいつもよりずっと濁っている」と訴え、発熱もあるため外来を受診しました。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
迅速なアセスメント:バイタルサイン(特に体温)、腹痛の部位・性質・程度、排液の外観(混濁度、色、量)、カテーテル出口部の状態(発赤、腫脹、排膿)を確認します。
2.
優先アクション(診断の確定):医師に連絡し、指示を得ながら、無菌的に排液の検体を採取します。通常、最初の排液バッグから直接、または専用の培養ボトルに採取します。
3.
医師の指示に基づく初期対応:検体採取後、医師の指示により、腹腔内に抗菌薬を添加した透析液の交換(
腹腔内投与 (Intraperitoneal administration))が開始されます。疼痛管理も同時に行われます。
4.
患者教育とモニタリング:患者と家族に、腹膜炎の症状(混濁液、腹痛、発熱)を再度説明し、これらの症状が現れたら直ちに医療機関に連絡するよう指導します。治療開始後の症状の変化、バイタルサイン、排液の状態を継続的に観察します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
検体採取は厳密な無菌操作で行い、汚染を防ぎます。腹膜炎が疑われる場合、透析液バッグの交換は、
混同注意! 必ず「排液→注入」の順で行い、排液を確認してから新しい透析液を注入します。排液不良がある場合に新しい透析液を注入すると、腹腔内圧が上昇し危険です。
看護処置と与薬フロー
| ステップ | 行動 | 根拠・注意点 |
|---|
| 1. 情報収集 | 症状(腹痛、混濁液、発熱)の確認、バイタル測定、排液バッグの観察。 | 腹膜炎の3徴をアセスメント。客観的データを記録。 |
| 2. 医師への報告 | 患者の状態と腹膜炎の疑いを迅速に報告。 | 診断と治療方針の決定を促す。 |
| 3. 検体採取 | 無菌手袋・マスクを着用。排液バッグのポートから直接、または専用容器へ。 | 培養結果が抗菌薬選択の根拠となる。汚染防止が必須。 |
| 4. 初期治療の実施 | 医師の指示で、抗菌薬入り透析液の準備・交換。鎮痛薬投与。 | 腹腔内投与が第一選択。疼痛コントロールも重要。 |
| 5. 継続的観察 | 症状の緩和、バイタルサイン、次回以降の排液性状をモニタリング。 | 治療効果の評価と合併症(敗血症など)の早期発見。 |
先輩看護師からの一言
「腹膜透析は患者さん自身が自宅で行う治療だからこそ、合併症の早期発見・早期治療が命綱です。『お腹が痛い、液が濁っている、熱がある』この3つが揃ったら、迷わず『腹膜炎』を疑い、まずは原因を突き止めるための検体採取を優先しましょう。痛みを和らげてあげたい気持ちはわかりますが、根本原因を治療しなければなりません。あなたの迅速で適切な初期対応が、患者さんの腹膜(透析の生命線)を守り、在宅療養生活を支えるのです!」