看護学のコア解説
この問題は、
持続性嘔吐 (Persistent vomiting)と
脱水 (Dehydration)を呈する患者に対する
優先度の高い看護介入 (Priority nursing intervention)を問うています。看護師国家試験では、患者の状態を総合的にアセスメントし、生命の危機に直結する問題から優先的に対処する能力が試されます。
重要概念の分析 (Key Concept)
患者は65歳、糖尿病の既往があり、24時間持続する嘔吐、
嗜眠 (Lethargy)、粘膜乾燥、皮膚緊張度の低下(皮膚をつまんで離した後、元に戻るのが遅い状態)を示しています。バイタルサインでは、
頻脈 (Tachycardia: 110 bpm)、
頻呼吸 (Tachypnea: 22/min)、
血圧低下 (Hypotension: 100/60 mmHg)が見られます。これらの所見は、
ここがポイント! 中等度から重度の脱水、特に循環血液量の減少(循環血液量減少症)を示唆しています。頻脈と血圧低下は、体が循環血液量を維持しようとする代償反応(カテコラミン放出)の現れであり、ショックの前段階である可能性があります。
正解の根拠 (Answer Rationale)
選択肢①「医師の指示に基づき静脈内輸液療法を開始する」が正解です。その理由は、
ABC(気道、呼吸、循環)のアプローチに基づき、
循環血液量の維持が生命維持の最優先事項だからです。持続性嘔吐では経口摂取が不可能であり、経口補水や薬剤投与は効果がありません。静脈内輸液は、失われた水分と電解質を直接血管内に補充し、循環動態を安定させ、腎機能を保護し、さらなる合併症(例:糖尿病性ケトアシドーシスの悪化、急性腎障害)を予防するための
決定的な介入 (Definitive intervention)です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! ②「経口制吐薬を投与する」:持続的に嘔吐している患者に経口薬を投与しても、吸収される前に吐き出される可能性が高く、無効です。制吐が必要な場合でも、静脈内または筋肉内投与が選択されます。根本的な脱水の是正が優先です。
混同注意! ③「少量頻回の透明な水分摂取を促す」:軽度の脱水や嘔吐が落ち着いた患者には有効なケアですが、
「持続性嘔吐」と「循環動態不安定(頻脈、低血圧)」を示すこの患者には適切ではありません。経口摂取の試みは嘔吐を誘発し、患者の苦痛とエネルギー消耗を増すだけです。
混同注意! ④「児童をファウラー位に体位する」:この選択肢には重大な誤りが2つあります。第一に、患者は「65歳」の成人であり「児童 (child)」ではありません。第二に、体位管理(例:誤嚥防止のため横向きにする)は重要ですが、循環血液量減少という根本的な問題を解決する優先介入にはなりえません。
関連概念の整理 (Related Concepts)
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脱水の臨床的評価 (Clinical assessment of dehydration):皮膚緊張度、粘膜の湿潤度、眼球陥凹、大泉門の陥没(乳児)、尿量、意識レベル、バイタルサイン(特に脈圧の狭小化)を総合的に判断します。
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糖尿病と嘔吐 (Diabetes and vomiting):糖尿病患者が嘔吐すると、インスリン投与が困難になり高血糖が持続する一方、摂取できないため体は脂肪を分解してエネルギーを得ようとし、
糖尿病性ケトアシドーシス (Diabetic Ketoacidosis, DKA)を発症するリスクが高まります。この患者の評価には、血糖値とケトン体のチェックも必須です。
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看護過程における優先順位付け (Priority setting in nursing process):マズローの欲求段階説やABC(気道、呼吸、循環)の原則に基づき、生理的欲求(特に生命維持)に関わる問題を最優先します。
概念のまとめ
・優先介入の判断基準:ABC(気道、呼吸、循環)の安定化 → 生命の危機の回避が最優先。
・持続性嘔吐+脱水徴候(頻脈、低血圧、皮膚緊張度低下)= 静脈内輸液による循環血液量補充が最優先。
・経口介入は、嘔吐がコントロールされ、循環動態が安定してから開始する。
一目で比較!
| 状態 | 優先看護介入 | 理由 |
|---|
持続性嘔吐+脱水徴候あり (循環不安定) | 静脈内輸液 | 経口摂取不能。循環血液量を直接補充し、ショックを予防するため。 |
軽度嘔吐+脱水徴候なし (循環安定) | 経口補水の開始・観察 | 経口摂取が可能であれば、侵襲の少ない方法から開始。 |
| 嘔吐後、状態安定 | 制吐薬の投与(非経口)、食事再開の計画 | 根本原因(脱水)是正後、症状管理と栄養確保へ。 |
解剖生理と薬理のポイント
・嘔吐のメカニズム:延髄の嘔吐中枢が刺激され、横隔膜と腹筋の収縮、胃の逆蠕動、幽門閉鎖、噴門弛緩が起こり、胃内容物が排出される。
・脱水による循環反応:循環血液量減少 → 静脈還流量減少 → 心拍出量減少 → 血圧低下 → 圧受容器が感知 → 交感神経興奮 → 心拍数増加(頻脈)、末梢血管収縮(皮膚冷感、尿量減少)。
暗記のコツとゴロ合わせ
・優先順位の原則:「まずはチャージ!」 循環血液量減少(脱水、出血)が疑われたら、まずは輸液や輸血で「チャージ(補充)」するのが最優先。
・脱水のサイン:「ハラヘッタ、カワイタ、ムネドキが早い」(腹減った=嘔吐/下痢で摂取不能、渇いた=口渙・粘膜乾燥、胸ドキが早い=頻脈)。
国試頻出ポイント
「持続性嘔吐」「下痢」「熱傷」「出血」などの体液喪失がある患者では、バイタルサイン(特に脈拍と血圧)と身体所見(皮膚緊張度、粘膜)から脱水/循環血液量減少の程度を判断し、静脈内輸液の必要性を問う問題が非常に頻出です。小児と高齢者は脱水に陥りやすく、重症化しやすいため特に注意しましょう。
国試出題パターンの変化に注意!
同じ「嘔吐と脱水」のテーマでも、「最初に行う看護ケアは?」(実施)から、「看護師が最初にアセスメントすべきデータは?」(アセスメント)に変化することがあります。後者の場合、バイタルサインや身体所見のデータを読み取り、脱水の重症度を判断する能力が問われます。また、糖尿病患者というコンテクストから、血糖値や動脈血液ガス分析のデータを解釈し、DKAのリスクを判断する問題にも発展します。