看護学のコア解説
この問題は、
重度脱水 (Severe dehydration)の患者において、
体液バランス (Fluid balance)を維持するための代償機構が破綻しつつある、最も重要な兆候を見極める力を問うています。輸液療法を行っているにもかかわらず、
ここがポイント! 代償機構が限界を超え、
循環虚脱 (Circulatory collapse)に至る危険性が高い状態を判断する必要があります。
重要概念の分析 (Key Concept)
重度脱水では、体内の水分量が減少し、
循環血液量 (Circulating blood volume)が著しく低下します。身体はこれを補うために、
代償機構 (Compensatory mechanisms)を働かせます。例えば、
抗利尿ホルモン (ADH)の分泌を増やして尿量を減らし(尿比重上昇)、
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 (RAAS)を活性化してナトリウムと水分の再吸収を促し、
交感神経系 (Sympathetic nervous system)を興奮させて心拍数を増加させます。これらはすべて、血圧を維持しようとする正常な反応です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解である「
中心静脈圧 (CVP) 2 mmHgに持続的な低血圧を伴う」は、これらの代償機構がもはや機能せず、
循環血液量減少性ショック (Hypovolemic shock)に移行しつつあることを示す最も重要な兆候です。
ここがポイント! CVPは右心房圧を反映し、
血管内容量 (Intravascular volume)の指標となります。正常値は
2〜8 mmHg(または5〜10 cmH2O)ですが、
2 mmHgは下限ギリギリまたはそれ以下の低値であり、
「輸液を行っているにもかかわらず」低血圧が持続しているという点が決定的です。これは、血管内に注入された水分が急速に血管外(組織間隙や細胞内)へ移動しているか、あるいは失われている量が補給量を上回っていることを意味し、
体液バランス (Fluid balance)の恒常性維持機構が破綻していることを示します。この状態は緊急性が高く、迅速な対応が必要です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 他の選択肢は、重度脱水において「予想される」または「代償期」の所見であり、必ずしも直ちに致命的とは限りません。
①
尿比重 1.035:これは
抗利尿ホルモン (ADH)が分泌され、腎臓が水分を保持しようとする正常な代償反応です。脱水の指標ではありますが、代償機構が「機能している」証拠です。
③
血清ナトリウム 148 mEq/L:これは
高張性脱水 (Hypertonic dehydration)(水分喪失がナトリウム喪失を上回る状態)を示唆します。電解質異常は重要ですが、単独では循環動態の破綻を直接示すものではありません。
④
心拍数 110回/分:これは
頻脈 (Tachycardia)であり、循環血液量減少に対する
交感神経系 (Sympathetic nervous system)による代償反応(心拍出量を維持しようとする)です。これも代償機構が働いている証拠です。
関連概念の整理 (Related Concepts)
体液バランスの破綻は、
ショック (Shock)の前段階です。看護師は、バイタルサイン(特に血圧と脈拍)、
皮膚ツルゴール (Skin turgor)、粘膜の乾燥、
尿量 (Urine output)(目標:
0.5 mL/kg/時以上)を継続的にモニタリングし、CVPや
スワン・ガンツカテーテル (Swan-Ganz catheter)による血行動態モニタリングが行われる場合は、そのデータを正確に解釈する能力が求められます。
概念のまとめ
・重度脱水:循環血液量の著しい減少。
・代償機構:ADH分泌↑、RAAS活性化、交感神経興奮(頻脈)などで血圧維持を図る。
・代償破綻のサイン:
代償反応(頻脈、尿濃縮)が見られるにもかかわらず、血圧が持続的に低下し、血管内容量指標(CVP)が低値である状態。
・看護の焦点:輸液療法の効果評価と、ショックへの移行の早期発見。
一目で比較!
| 評価項目 | 代償期(身体が頑張っている) | 代償破綻期(危険信号) |
|---|
| 血圧 | 正常または軽度低下 | 持続的な低血圧 |
| 心拍数 | 頻脈(代償反応) | 頻脈が持続、または徐脈(末期) |
| CVP | 低値または正常下限 | 著明な低値(例:2 mmHg) |
| 尿量/尿比重 | 減少、比重上昇(代償反応) | 乏尿/無尿が持続 |
| 意識レベル | 清明またはやや不安 | 傾眠、混迷、意識障害 |
解剖生理と薬理のポイント
・
中心静脈圧 (CVP):右心房の圧力を反映。前負荷(心臓が収縮する前に心室壁を伸展させる力)の指標。血管内容量が減少すると低下する。
・
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 (RAAS):腎血流減少→レニン分泌→アンジオテンシンⅡ生成→血管収縮&アルドステロン分泌→ナトリウム・水分再吸収促進。脱水時の重要な代償経路。
・輸液療法:初期は
等張液 (Isotonic solution)(生理食塩水、乳酸リンゲル液)を急速に投与し、血管内容量を補充する。
暗記のコツとゴロ合わせ
「
低CVPで低血圧、代償限界のサインだ」
脱水の代償反応は「
尿濃く(比重↑)、脈速く(頻脈)、血圧は頑張る」。これが効かなくなったらアラート!
国試頻出ポイント
体液バランスとショックは国試の超重要テーマです。特に「輸液中の患者で、最も緊急性の高い(優先すべき)アセスメント所見はどれか?」という形で、代償期と非代償期(ショック期)の所見を区別させる問題が頻出します。
国試出題パターンの変化に注意!
同じ「脱水・ショック」の概念でも、
1. 症状・所見を選ばせる(基本)
2. 優先度の高い看護ケア(例:急速輸液の準備、医師への緊急報告)を選ばせる
3. 輸液の種類(等張液 vs 低張液)や投与速度の根拠を問う
といった形で出題されます。本問は「最も重要なアセスメント所見」を問うパターンです。