看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
糖尿病の患者さん(Aさん)に、朝食前の超速効型インスリン 8単位を皮下注射することになりました。あなたはインスリン専用の冷蔵庫からビアルを取り出し、シリンジに吸引しました。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
準備段階:医師の指示(オーダー)を確認し、インスリンの種類(超速効型)、用量(8単位)、投与経路(皮下)を自分で確認します。
2.
独立したダブルチェックの実施:別の看護師(可能ならば薬剤師も)に依頼します。依頼する時は、「Aさんに投与する超速効型インスリン8単位を確認してもらえますか?」と具体的に伝えます。確認者は、
あなたから情報を聞くのではなく、オーダーシート、薬剤のラベル、吸引済みシリンジ、患者IDバンドを
自分自身の目で確認します(これが「独立した」確認です)。
3.
投与と観察:確認が完了したら、患者さん本人にも名前と生年月日を確認してもらい(2重の患者確認)、投与します。投与後は低血糖症状(冷や汗、動悸、手指の震え、意識レベルの変化など)に注意して観察します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
・ダブルチェックは形式的なものにしてはいけません。確認者同士が会話を交わし、「このインスリンは持効型だよね?」「単位は18?それとも8?」と声に出して確認することが重要です。
・インスリンは単位(unit)で処方されます。シリンジは必ず「単位表示」のもの(例:U-100用シリンジ)を使用し、通常のmL表示のシリンジと絶対に混同しないでください。
看護処置と与薬フロー
| ステップ | 具体的行動 | 目的・根拠 |
|---|
| 1. オーダー確認 | 電子カルテまたはオーダーシートで、薬剤名、用量、経路、時間を確認。 | 与薬の5原則の基本。誤オーダーや変更がないか確認。 |
| 2. 薬剤準備 | 冷蔵庫から正しい種類のインスリンを取り出し、有効期限、外観(変色、浮遊物なし)を確認。 | 薬剤の有効性と安全性の確保。 |
| 3. 独立ダブルチェック | 別の医療従事者に、オーダー、薬剤、シリンジ、患者IDを独立して確認してもらう。 | 人的エラーを捕捉する最も強力なシステム防御。 |
| 4. 患者確認 | 患者に名前と生年月日を名乗ってもらい、IDバンドと照合。 | 最終的な患者識別の確認。 |
| 5. 投与と観察 | 適切な部位(腹部、上腕外側など)に皮下注射。投与後30分〜1時間は低血糖兆候を観察。 | 安全な投与と、有害事象の早期発見・対応。 |
| 6. 記録 | 投与時間、用量、部位、確認者、投与前後の血糖値(測定した場合)、患者の状態を記録。 | 法的記録と継続看護のための情報提供。 |
先輩看護師からの一言
「インスリンの誤投与は、文字通り命に関わります。『自分は大丈夫』という過信が一番危険です。ダブルチェックは手間だと感じることもあるかもしれませんが、それはあなたと同僚、そして何より患者さんを守るための『命の保険』です。臨床では、忙しい時こそこの手順を丁寧に守ることが、プロフェッショナルとしての証です。国試でも『最も重要な安全対策』と問われたら、システム的な防御策である『独立したダブルチェック』を思い出してください!」