看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
産科病棟または救急外来に、顔色不良、口唇の乾燥、皮膚ツルゴールの低下が見られる妊娠10週の患者が来院。尿検査でケトン体強陽性、血液検査で低カリウム血症、代謝性アルカローシス(嘔吐による胃酸喪失のため)が認められる。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
アセスメント: バイタルサイン(特に血圧、脈拍)、皮膚・粘膜の状態、正確な体重測定、出入量(I&O)の厳密な記録を開始。
2.
優先介入: 医師の指示のもと、乳酸リンゲル液や生理食塩水などの
維持輸液 (Maintenance fluid)と電解質(特にカリウム)補充を目的とした静脈ラインを確保し、輸液を開始。
3.
継続的ケア: 輸液による症状改善後、経口摂取を再開。①の少量頻回食(BRAT食:バナナ、リンゴソース、白米、トーストなど)から開始。制吐薬(例:メトクロプラミド)の静脈内または坐薬投与を検討。④の情緒的サポートを行い、病気の経過について説明し不安を軽減。
4.
評価: 尿量の増加、ケトン体の消失、電解質値の正常化、体重の安定、嘔吐回数の減少などを指標に改善を評価。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
・ 輸液速度は医師の指示を厳守。急速な輸液は肺水腫のリスクがあります。
・ カリウム補充時は、
混同注意! 必ず希釈し、適切な速度で投与。高カリウム血症は致死的な不整脈を引き起こします。
・ 長期の絶食状態では、輸液にビタミンB1(チアミン)を添加することを忘れずに。
看護処置と与薬フロー
| ステップ | 看護アクション | 根拠と注意点 |
|---|
| 1. アセスメント | バイタルサイン、脱水徴候、体重、検査データ(電解質、ケトン体)を確認。 | 重症度と緊急性を判断する基礎データ。 |
| 2. ライン確保 | 末梢静脈路を確保。可能ならばIVロック (Heparin lock)や持続輸液セットを準備。 | 確実な輸液・与薬経路の確保。血管保護の観点からも重要。 |
| 3. 輸液開始 | 指示された輸液製剤(例:生理食塩液+KCl添加)を、指示速度で開始。 | 脱水と電解質異常の是正が第一目標。滴下数は必ず計算・確認。 |
| 4. モニタリング | バイタルサイン(1-2時間毎)、尿量・性状、嘔吐の有無、自覚症状を観察・記録。 | 治療効果と合併症(過剰輸液など)の早期発見。 |
| 5. 経口摂取再開 | 症状改善後、水分(経口補水液など)→ 消化の良い固形食の順で開始。 | 消化管を急に刺激しない。再発予防のための食事指導も実施。 |
先輩看護師からの一言
「妊娠悪阻の患者さんは、『つわりがひどいだけ』と我慢して来院が遅れ、重篤化するケースがあります。看護師は、
『体重減少』と『ケトン尿』という2つの客観的データを重く見ることが大切です。生理的危機を脱した後は、『あなたのせいではないですよ』と声をかけ、罪悪感を取り除く情緒的サポートが、その後の療養意欲に大きく影響します。国試でも『優先度』を問う問題は頻出です。『生命の危機に直結するか?』『実施可能か?』という2つの視点で考えれば、自然と正解に辿り着けますよ!」