看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
あなたは産褥病棟の看護師です。28歳、初産婦のAさんが、12時間前に2度会陰裂傷を伴う経腟分娩で出産しました。Aさんが「会陰がズキズキして、我慢できないほど痛い(8/10)!」と訴え、鎮痛剤を要求してきました。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
即時のアセスメント:まず落ち着いて声をかけ、「痛みの場所と様子を教えてください」と確認します。同時に、バイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸、体温)を測定します。血圧低下や頻脈は出血やショックの徴候です。
2.
会陰部の観察:プライバシーを確保し、清潔な手袋を装着して観察します。
- 視診:パッドの出血量(1時間でパッド1枚以上は過多)、血液の色(鮮紅色か暗赤色か)。会陰部に紫青色の腫脹や皮膚の緊満がないか。
- 触診:注意! 十分に説明し、軽く触れてみて、硬結(コリコリした硬さ)や圧痛、熱感がないかを確認します。血腫は触ると硬く、強い圧痛があります。
3.
判断と報告:血腫や異常な出血が疑われる場合は、
直ちに医師に報告します。血腫が小さい場合は経過観察、大きい場合は切開排膿や再縫合が必要になることがあります。
4.
疼痛緩和ケアの実施:合併症が否定され、単なる創部痛と判断された場合に初めて、以下のケアを実施します。
- 処方に基づく鎮痛薬の投与。
- 氷嚢の適用(タオルで包み、20分程度当てる)。
- 安楽な体位(側臥位など)の援助。
5.
継続的モニタリングと教育:疼痛の経過、バイタルサイン、出血量を継続して観察します。また、会陰清潔の方法(前方から後方へ拭く)や、痛みが増強するようならすぐに知らせるよう指導します。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
・温坐浴は、
出血が落ち着き、医師の許可が出てから(通常24時間以降)開始します。早期の温熱は血管拡張を招き危険です。
・鎮痛薬投与時は、
授乳のタイミングを考慮します(移行する薬剤もあるため)。
・患者の訴えを軽視せず、「産後だから痛いのは当たり前」と決めつけないことが、重大な合併症予防の第一歩です。
看護処置と与薬フロー
| ステップ | 行動と根拠 |
|---|
| 1. 情報収集(アセスメント) | 患者の訴えを傾聴。バイタルサイン測定、会陰部の視診・触診。 根拠:症状の原因を特定し、安全な介入の基盤を作る。 |
| 2. 判断と報告 | 観察結果から合併症の有無を判断。疑いがあれば直ちに医師報告。 根拠:看護師の判断範囲を超える場合は、チーム連携が必須。 |
| 3. 計画に基づく介入 | 合併症なし:鎮痛薬投与、冷却、安楽体位。合併症あり:医師の指示待ち。 根拠:原因に応じた個別的なケアを提供。 |
| 4. 評価と記録 | 介入後の疼痛スコア、バイタルサイン、患者の反応を評価し記録。 根拠:ケアの効果を判定し、次の計画に活かす。 |
先輩看護師からの一言
「産後のママは、出産の疲れと育児の開始でいっぱいいっぱいです。『痛い』という一言には、不安や苦痛がたくさん詰まっています。私たち看護師は、その訴えを真摯に受け止め、専門的な目で『なぜ痛いのか』を探る偵探のような役目です。安易に薬でごまかすのではなく、しっかり観察して原因を見極める。それが、ママと赤ちゃんの安全を守る一番の近道ですよ。国試でもこの『アセスメントファースト』の考え方は、全ての分野で通用する鉄則です!」