看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
分娩室または産褥病棟で、分娩後2時間の患者さんが、パッドがすぐに濡れてしまうほどの多量の性器出血を訴えています。触診すると子宮底は軟らかく(boggy)、位置は臍上にあります。子宮底マッサージを試みても持続的に硬くならず、患者さんの顔色は青白く、冷や汗をかき、「気分が悪い、めまいがする」と訴えています。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
即時通報:ナースコールまたは直接連絡で、医師・助産師に「子宮収縮不全による大量出血、ショック徴候あり」と簡潔明確に報告する。
2.
チーム準備の支援:指示に従い、子宮収縮薬の準備、大口径IVライン確保の準備、輸液・輸血の準備、手術室への連絡などを行う。
3.
並行する支持ケア:酸素投与(リザーバー付きマスクで高流量)、既存のIVラインを開通させ急速輸液を開始(指示待ちの場合も生理食塩液等でキープ)、バイタルサインと意識レベルを頻回にモニタリング。
4.
継続的アセスメント:出血量の計測、子宮底の状態、尿量(膀胱充満は子宮収縮を妨げるため導尿が必要な場合も)を観察。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
・ 患者さんを決して一人にしない。安楽な体位(Trendelenburg位は推奨されない場合が多い)を保つ。
・ 出血量は過小評価しがちなので、客観的に計測・記録する。
・ 子宮収縮薬の投与時は、血圧上昇(特にエルゴタミン製剤)などの副作用に注意する。
看護処置と与薬フロー
| 状況 | 看護師の優先行動 | 根拠と注意点 |
| 子宮弛緩、大量出血、ショック徴候 | 1. 医療者へ即時通報 2. 緊急介入準備 | 根本治療(収縮薬・手術)には医師の指示・処置が必要。看護師はチームの要として連絡・準備を行う。 |
| 通報後・並行ケア | 酸素投与、IV確保・輸液、バイタル頻回測定 | 組織の低酸素を防ぎ、循環血液量を補充する支持療法。大口径(14-16G)カテーテルが理想。 |
| 子宮収縮薬(オキシトシンなど)投与 | 指示通り正確に投与、副作用(悪心、血圧変動)を観察 | 静脈内投与が一般的。急速投与による低血圧に注意。効果(子宮硬化、出血減少)を評価。 |
先輩看護師からの一言
「分娩後出血は、『待っていれば治まるだろう』という考えが最も危険です。子宮が柔らかい、出血が多いと感じたら、それは既にアラームです。特に初めての出血対応では焦りますが、『通報する』という最初の一歩を迷わず踏み出すことが、患者さんの命を救う最速の道です。その後のIV確保や酸素投与は、チームが到着するまでの『時間を稼ぐ』ための重要なケアですよ!」